乗用車の走行履歴としての「プローブデータ」とその活用方法を解説

位置情報データ
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乗用車で生成される「プローブデータ」をご存じでしょうか。プローブデータを収集すると、ドライバーのサポートが容易になるだけでなく、それを分析することで、道路交通の管理を容易にする有益な情報が得られるなどのメリットがあります。

この記事では、プローブデータの詳細を知りたい方やドライバーに向けて、プローブデータの概要と、その二次活用の方法を解説します。あわせて、ドライバーが自動車メーカーにプローブデータを提供するメリットもわかります。

走行履歴としてのプローブデータ

まずは、プローブデータの概要を見てみましょう。

乗用車で生成される

皆さんは、ドライブ中にトラブルに遭遇したことはありませんか?土地勘がない場所で乗用車の調子が悪くなったことはありませんか?ロードサービスを呼びたくても、今どこにいて、乗用車がどのような状態か説明できず、困ったことはありませんか?

このような場面に遭遇すると、不安を覚えます。現在地も乗用車の状態もわからなかったら、なおさらです。

一方、現在は自動車メーカーがトラブルに遭遇したドライバーを支援するサービスがあります。ドライバーが保有する乗用車の位置や状態を遠隔で把握できるようになったからです。

なぜこのようなことができるのかというと、保有者から許諾を得た乗用車の走行履歴を示すデータが、自動車メーカーのデータセンターに自動的に送られるようになったからです。そのデータは、自動車メーカーのサポートセンターやコールセンターと共有されます。このため、サポートセンターは、ドライバーが遭遇した乗用車の位置や状態を把握し、的確に助言できます。

プローブデータの収集・蓄積・分析の概要
データセンターは乗用車と無線通信し、プローブデータを収集・蓄積

先ほど述べた走行履歴を示すデータは、「プローブデータ」と呼ばれます。これは、乗用車の位置情報と車両情報を組み合わせてデジタルデータに変換したものです。ビッグデータ(大量・多様で生成速度も高いデータ群)の一種でもあります。

ドライバーがプローブデータを自動車メーカーに提供すると、トラブルに遭遇したときに、従来よりも早急に対応しやすくなります。これが、プローブデータを提供する最大のメリットです。

プローブデータの二次活用

一方近年は、プローブデータを二次活用し、新たな価値を生み出すビジネスが展開されています。つまり、ドライバーのサポートという主目的以外に活用する動きがあるのです。

自動車メーカーのデータセンターでは、プローブデータを毎日収集・蓄積しています。多くの乗用車から送信されたプローブデータは、自動的にここに集積されるからです。対象となる乗用車数や1日あたりの走行距離の増加、収集する期間の長期化などの場合は、その分だけ蓄積されるプローブデータの容量が大きくなります。

こうして蓄積されたプローブデータには、有用な情報が含まれています。そこには、多くの乗用車の走行履歴が集約されており、「いつ・どこで・何が起きた」という情報が詰まっています。

このため、プローブデータを分析すると、有用な情報を取り出せます。さらに近年はAIや機械学習などの技術の発達によって、データの処理能力が向上し、分析が容易になりました。

道路管理の効率化

プローブデータを二次活用する仕組みの図
プローブデータを二次活用する仕組み

プローブデータの二次活用の代表例の1つに、「道路管理(維持管理・点検・補修など)」の効率化があります。つまり、私生活を支える道路の維持や、そこでの交通の安全や円滑さの維持が可能です。

プローブデータを分析すると、道路管理に有用な情報を取り出すことができます。多くの乗用車の走行履歴から、「いつ・どこで・どのようなトラブルが起きやすいか」という統計データを得られます。これによって、調査する場所を絞り込むことができ、安全かつ円滑な道路交通を実現するための課題が可視化できます。ここでいう調査とは、道路の補修や改良が必要な場所を特定し、異状の度合いを評価することです。

具体的に例を挙げましょう。渋滞が起きやすい場所は、乗用車の走行速度からわかります。同様に、交通事故が起こりやすい場所は、多くのドライバーが急ブレーキをかけた場所からわかります。路面が劣化した場所は、乗用車の振動からわかります。低温時に路面凍結でスリップが起きやすい場所は、気温と車輪の挙動の関係からわかります。

以上のような情報が得られると、調査の対象を絞り込むことができ、道路管理を効率化できます。道路管理に必要な作業を減らせるからです。

このような調査は、人手とコスト、そして時間がかかります。たとえば、路面の状態は、専門知識を持った作業員がパトロール車両で巡回して確認するか、現地を歩いて目視で判定します。一方、特殊車両を道路で走らせて路面の状態を把握する例もあります。ただし、特殊車両の導入や運用、維持管理、そしてドライバーの確保にはコストがかかります。

他方、乗用車のプローブデータを活用すると、それらを削減できる可能性があります。プローブデータは、一般のドライバーが運転する多数の乗用車を通して収集できるので、1日だけでも長大な走行距離のデータが得られます。また、事故や障害物(倒木・倒竹など)、災害でふさがれる道路が発生する状況でも、プローブデータに含まれる走行履歴から、通行可能である道路を把握できます。

プローブデータの活用で調査が容易になると、道路管理が効率化され、道路管理全体の高度化につながります。すでに実際に効率化した事例もあります。

Hondaの取り組み

次に具体例として、Hondaによるプローブデータの活用方法を解説します。

プローブデータの流れ

自動車メーカーの1つであるHondaは、すでにプローブデータを活用してドライバーを支援するサービス「Honda Total Care」を展開しています。その利用者数は600万人以上です(2025年6月現在・※1)。

その一方で、許諾を得た乗用車から収集したプローブデータをデータセンターで蓄積しています。同社は、2003年にプローブデータを活用したカーナビシステムを世界で最初に開発しました。また、2010年ごろからは、通信料不要の車載通信デバイスを車種・車格を問わず全車(軽乗用車を含む)に搭載し、プローブデータを収集・蓄積してきました。現在は、対象となる乗用車の1日あたりの走行距離は、5,000万kmを突破しています(※2)

なお、プローブデータの収集にあたり「Honda Total Care会員規約」および「本田技研工業株式会社プライバシーポリシー」に準拠し、個人情報を含まないデータを収集・活用しています。会員規約プライバシーポリシーの詳細は、HDDS公式サイトのリンクをご参照ください。

分析と二次活用

同社は、プローブデータを二次活用するビジネスも展開しています(※3)

「Honda Drive Data Service」概要図
乗用車から収集・蓄積したプローブデータを分析・二次活用するビジネスを展開

データセンターで蓄積されたプローブデータを分析して、有用なデータを取り出し、道路交通を管理する官公庁や自治体、企業に提供しています。

この有用なデータは、都市計画や渋滞対策、交通安全、防災減災、路面管理、駐車情報の活用など、幅広い用途で使われています。また、路面性状調査(路面の劣化状況を判定する調査)や渋滞対策にいかした実例もあります。

まとめ

本記事では、プローブデータの概要と二次活用の代表例(道路管理)を解説しました。プローブデータを分析することで、走行履歴からさまざまな情報を読み取ることができ、道路管理の効率化が可能です。

プローブデータについてさらに深く知りたい方は、「Honda Drive Data Service」のWebサイトもご参照ください。ここでは、プローブデータの活用事例などの多くの情報が掲載されています。

このコラムの執筆者

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川辺 謙一
東北大学工学部卒。東北大学大学院工学研究科博士前期課程(修士)修了。
メーカー入社後は、工場や研究所で技術者として研究開発に従事し、2004年に独立。茨城県南部在住。
技術者だった経験と、文章や絵で表現する能力を活かし、身近な交通に使われている技術を一般向けに翻訳・紹介する活動を20年以上続けている。
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