「FF使い」に聞く
「CIVIC TCR」&「シビック TYPE R」Vol.1

「乗るだけで寝込むクルマ」

──今年から始まったTCR JAPANですが、なぜ参戦することになったのでしょう?

TCR JAPAN
塩谷

「Hondaもシビックで参戦しているWTCRのレースを見ていたんですが、まさに『ガチンコバトル』でものすごく面白かった。あれが日本にもやって来ると思ったら、いてもたってもいられなくなって。フィットでチャンピオンを取ったタイミングでしたし、自分たちがFF車のレースで培ってきたものを試すなら今しかない、と思ったんです」

TCR JAPAN
柿沼

「正直なところ、自信のほどはどうだったのでしょう?」

塩谷

「最初はわりと自信がありましたよ。ところが蓋を開けてみたら、周囲は世界戦を戦うようなチームやドライバーばかりだし、『おや?様子が違うぞ……?』みたいな(笑)」

TCR JAPAN
柿沼

「シビックTCRをシェイクダウンしたとき、烈州さんに感想を聞きましたよね。『加速良すぎる、曲がりすぎる、止まりすぎる』……でしたっけ(笑)?」

塩谷

「そうですね。これまで乗ったクルマとはあらゆる性能が段違いでした。冗談抜きで、初めてに乗ったときは寝込みました。お世話になっている接骨院で診てもらったら、『塩谷さん、これは“怪我”ですよ』と言われて」

柿沼

「乗るだけで寝込むクルマ!」

TCR JAPAN
塩谷

「強烈な横GやブレーキングのGで身体の節々にダメージが加わったようです。『これは鍛えながら乗らないとダメですね』と言われて、今回(第3戦)くらいから、ようやくこうして走行後にお話ができるようになってきた感じですね」

TCR JAPAN

「ビタビタ思い通り」を目指して

柿沼

「TCRで何戦か戦ってきて、どうですか?」

塩谷

「正直なところ、まだ試行錯誤しているところですね。世界戦でもセオリーとされているのは、ブレーキングでクルマが自転するような動きを作って、強烈なトラクションで引っ張っていくような走りです。でも、僕らはもうちょっと自分たちの信じるセッティングを追求してみたいと思っているんです」

TCR JAPAN

──それはどういうものなのでしょう?

塩谷

「どれだけ四輪を使って走れるか、曲がれるか。そこを追求したいと思っています。ブレーキングをコーナー手前で終わらせて、できるだけクルマに負荷をかけずに旋回して、トラクションをかける。僕らがずっと目指してきた走りが活きるのが、シビックというクルマなのではないかと考えていて」

TCR JAPAN
柿沼

「まさしくシビックTYPE Rで大切に磨いたのは、そこなんです。僕らが開発にあたって目指したフィールは『ビタビタ思い通り』という操縦感覚でした」

塩谷

「『ビタビタ思い通り』?」

柿沼

「ニュルブルクリンクのようなシビアリティの高いコースを走る時はなおさら、ブレーキを踏んだらちゃんと減速できて、ステアリングを切ったら狙った方向にちゃんと曲がって、きちんとトラクションがかかる。そういうクルマを作る必要があります」

TCR JAPAN

──言葉で聞くと当たり前みたいに聞こえますが、そうではないんですよね。

塩谷

「そういった、クルマとして当たり前のことすら難しくするのが、ニュルというコースですからね」

柿沼

「そうなんです。ニュルを全開で走るには、針の穴に糸を通すがごとくの繊細さと正確さが必要です。そのためには、リアタイヤもしっかり使って4つのタイヤの性能を100%引き出すようにしないといけません。それを極めていくと、『ビタビタ思い通り』にクルマが動いてくれる。クルマに対して信頼度100%で自信を持って攻められる時って、アドレナリンがわき出て『ワッホー!』って声が出ちゃうくらい気持ちいいんですよ(笑)!」

TCR JAPAN
塩谷

「なるほど(笑)。わかります。ひとこと付け加えるなら『四輪』ビタビタ思い通り、ですね。初めて新型のシビック TYPE Rに乗ったとき、FFなのに四輪でトラクションがかかっているような感覚があって驚いた記憶があります。現代のスーパースポーツに限りなく近い感覚でした」

TCR JAPAN
柿沼

「2007年にデビューした『FD2』シビック TYPE Rの頃までは、FFは200馬力程度が限界ではないか、というのが通説でした。でも、四輪を活かしきることができれば、FF車はさらに上を目指すことができると思っていました。その理想をかたちにできたのが、最新のシビック TYPE Rなんです」

塩谷

「ええ。だからこそ、柿沼さんたちが導き出したこの車両ディメンションやバランスから来る旋回性能を、どこまで引き出せるかにチャレンジしてみたいんですよね」(Vol.2に続く

TCR JAPAN

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