「FF使い」に聞く「CIVIC TCR」&「シビック TYPE R」Vol.2

「FF使い」に聞く
「CIVIC TCR」&「シビック TYPE R」Vol.2

市販のFF車をベースとした「TCR」と呼ばれるカテゴリーが、世界的に大きな盛り上がりを見せています。Hondaもこのカテゴリーに「CIVIC TCR」を投入。世界戦の「WTCR」、2019年から始まった「TCR Japan」ほか、世界各国の「TCR」で活躍を見せています。
今回は、シビック TYPE R開発責任者の柿沼秀樹が「TCR Japan」にCIVIC TCRで参戦する塩谷烈州さんを直撃。「FF使い」として知られる塩谷さんから、CIVIC TCRについて、そしてFFのドライビングについて聞きました。

聞く人

柿沼 秀樹

柿沼 秀樹
シビック TYPE R開発責任者。1991年に入社後、サスペンション性能の研究開発部門で、運動性能にまつわる車両ディメンションやサスペンションジオメトリーなどの研究開発を担当。1999年のS2000以降、シビック TYPE RやNSX等スポーツモデルを中心に車両運動性能開発を手がけてきました。社内トップライセンスを持ち、開発ドライバーとして、ニュルブルクリンク等でのテスト走行も行う「走るエンジニア」です。

答える人

塩谷 烈州

塩谷 烈州(しおや れっしゅう)
レーシングカーやジムカーナ車両の製作・メンテナンスの他、カメラカーの製作や運用、映像制作のアシストを行う有限会社ジーモーションの代表にして、様々なレースに参戦するジェントルマンドライバー。2011年にスーパー耐久ST-4クラスでチャンピオンを獲得し、その後もトップ争いを展開。2017年・2018年にはFIT 1.5チャレンジカップで2年連続チャンピオンを獲得するなど「FF使い」として知られています。

「これまでのFF」とシビック

──前回「四輪を活かしきる」という言葉がありました。これまでのFFは四輪で走っていないんですか?

塩谷

「『リアタイヤはフロントタイヤの邪魔をしない』というのは、これまでのFF車を速く走らせるためのセオリーでしたね。いかに、旋回と駆動を司るフロントタイヤを限界まで使い切れるか。リアは付いてきてくれさえすればいい、という」

TCR JAPAN
柿沼

「リアの応答性や追従性を高めすぎると、ピーキーさが出てきてしまう。旋回の限界は高まるけれど、回頭性を阻害したりグリップが抜けたときの挙動変化が唐突になったりするんですよ。初代のインテグラ TYPE Rなんかは、そこの塩加減が絶妙だったと思います」

初代インテグラ TYPE R

初代インテグラ TYPE R。FF車の常識を覆す切れ味鋭いハンドリングで高い人気を集めました。

塩谷

「この間も、山野哲也さんに初代インテグラTYPE Rを乗せてあげたら絶賛していました。あれはあれで最高に面白かったですね。初代のシビック TYPE Rは、それとは逆の方向性のセッティングだったと記憶しています」

柿沼

「そうですね。インテグラと違って、初代シビックTYPE Rはリアの追従レスポンスを上げる方向で運動性能を高めたクルマでした。3ドアハッチバックでリアの慣性マスが小さいというのも要因としてありましたね。社内でも、どっちが良いだの悪いだの、意見が分かれていたのを思い出します(笑)」 

初代シビック TYPE R

初代シビック TYPE R。リッターあたり116馬力という強力な動力性能で多くのドライバーを虜にしました。

──なるほど。そういうわけなんですね!

塩谷

「撮影でいろいろなクルマに乗ることがありますが、世界的に見ても四輪を接地させて走るというのはトレンドですね。たとえばポルシェのGT3のようなクルマでも、様々なトラクションデバイスを使ってリアを安定させ、とにかく『流す』ということをさせない方向になっています。これをFF車で実現させ、しかも究極の速さと扱いやすさを実現したところに、今回のシビックというクルマのすごさがあると思いますね」

TCR JAPAN

なぜシビックは「四輪で走る」ができるのか

──なるほど。ではシビックでそれができた要因を一言で言うと?

柿沼

「一言で言い表せたらカッコいいんですが、残念ながらそれはできないですね。リアサスペンションのキャパシティを高めたことは大きいですが、それを受け止めるボディの剛性バランスも重要です」

TCR JAPAN
塩谷

「タイヤのこともありますしね」

柿沼

「そうですね。空力バランスも影響しますし、フロントヘビーになりがちな前後重量配分を少しでも後ろに持っていったのもそう。いろいろな要素をとにかくひとつひとつを丁寧に積み重ねることでしか目指せない領域だったと思います」

TCR JAPAN

──走りを目指したFF車としての、完璧なバランスを追求したと。

柿沼

「ボタンのかけ間違いがひとつでもあったら、思ったような走りにはなりません。だからこそ、『TYPE R』まで見据えて、ベースとなる『シビック』のハードウェアを決めていったのです。特にボディやプラットフォームは『あとから変える』ことはできないですから」

──なるほど。

TCR JAPAN
柿沼

「『シビック』と『シビック TYPE R』、ボディの違いは接着接合の有無だけで、ボディ骨格は基本的に同じです。その上で、板厚が1ゲージ厚いCR-V用のリアサスペンションアームを適用したり、専用のブッシュを開発したり、細部まで煮詰めていくことで、きちんと踏ん張るけれど挙動が穏やかという、これまでにない乗り味を実現できたと思っています」

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