Technology

すべては、エンジンからはじまった。

それはすぐれた品質と信頼性で、
世界中の人々に欠くことのできないPowerとなった。
日々の仕事のなかで、余暇を過ごすなかで、
それは、単なるエンジンを超えて、
人の心を、生活を、夢を動かす動力源となった。

ハンドヘルド作業機

 刈払機、チェーンソー、ブロワ、噴霧器など世界中で広く使われているハンドヘルド作業機。動力源であるエンジンやモーターと一体になった作業機器を人の力で支えて操作する作業機の総称である。全世界で4000万台を販売する大きな市場で、その内の47%を刈払機(草刈機)が占めている(2013年現在)。

 これらハンドヘルド作業機に搭載されるエンジンでは、プロ用家庭用を問わず、エンジンの体積と重量を抑え、軽量コンパクト化を図ることが、重要な要素となる。

 Hondaが1953年に発売した汎用エンジンの第一号「H型」も、ハンドヘルドカテゴリーである背負式動力散布機用の2ストロークエンジンだった。「H型」は作業者の労力軽減のため小型軽量化を重視して、当時としては画期的なアルミダイキャスト製法による部品を採用したことによってハンドヘルドエンジン軽量化への先鞭を付けた。

しかし、翌年発売の「T型」以降Honda汎用エンジンは農業機械の動力源として燃費の良い4ストロークエンジンの製造に重きを置き、ハンドヘルドエンジンの製造は行わなかった。

 ハンドヘルド作業機のエンジンは、現在においても構造が簡単で部品点数が少なく、小型軽量化が容易な2ストロークエンジンが主流となっている。これは、あらゆる姿勢で運転できる2ストロークエンジン独特の混合ガソリンによる潤滑構造が、ハンドヘルド作業機の要求と合致するからである。2ストロークエンジンは、エンジンオイルとガソリンの混合燃料で潤滑するため極度にエンジンを傾けても焼き付き等の不具合は生じない。一方4ストロークエンジンは、クランクケースに溜めたエンジンオイルで潤滑する構造のため約30度を超える様な傾斜での運転は潤滑に支障を来し、焼き付きなど故障の原因となる。さらに動弁系を持つため構造が複雑となり重量サイズの観点から、4ストロークはハンドヘルド作業機用に適していないと言われていた。

 この様に、重量や運転性能では優れていた2ストロークエンジンであるが、燃焼効率の悪さや騒音、振動、白煙を伴う独特な臭いの排気ガス等の課題があり、改善が求められていた。さらに1996年からアメリカ合衆国・CARB(California Air Resources Board)によるSORE(Small Off-Road Engine)排気ガスエミッション規制が施行される事になり、排気ガス特性に劣る2ストロークエンジンでは、排気触媒等の浄化装置を取り付ける必要性に迫られる状況となった。

 この排気ガス規制の施行を契機にHondaは、「人と、地球と、未来のために、4ストローク技術で貢献したい」とハンドヘルド作業機用の4ストロークエンジンの開発に着手、「2ストローク同等の使いやすさ」を目標とした通称“M4-1”(ミニ4ストロークの第1弾の意)エンジンが完成した。

Hondaのテクノロージにより超小型4ストロークエンジンを実現した

 4ストロークエンジンの課題である重量については、「1コマ樹脂カムOHV」による動弁系部品の小型軽量化やFCスリーブを廃止しハイシリコンアルミ材を使った「軽量スリーブレスユニブロックシリンダー」などの技術で克服。乾燥重量は3.3kgと、2ストロークエンジン並みの小型軽量化を実現した。最大の難関であった潤滑課題は、新技術である「ロータリースリンガーポンピング潤滑システム」を考案し実用化に成功。まずエンジンが如何なる姿勢になってもオイルが燃焼室に流入しない様にクランクケースからオイルタンク室を分離したドライサンプ潤滑方式を採用。このオイルタンクを円筒形としクランクケース横に配置し、その中心を通るクランク軸に直結した撹拌翼でエンジンオイルを撹拌して飛沫化。この飛沫化オイルをピストンの上下運動によって生じるクランクケース内の脈動圧力をポンプとして利用することで、オイルタンク中心のクランク軸に開けた吸入孔からエンジンオイルを吸引・循環させる新技術で、世界で初めて360度自在傾斜運転が可能な4ストロークエンジンが完成した。また、CARB及び、アメリカ合衆国EPAの排気ガスエミッション規制については、後処理装置等のデバイスは一切使用せずに余裕をもって規制値をクリアすると共に、圧倒的な低燃費性能を実現し、Hondaエンジンの高い環境性能を証明した。

 M4-1エンジンは1997年に「GX22(22.2cc 1ps/7000rpm)」と「GX31(31cc 1.5ps/7000rpm)」として販売を開始。刈払機「刈丸4 UMK422/431」や、背負式刈払機「刈丸4 UMR422/431」、背負式動力噴霧器「WJR2210/2215/2225」などのHondaハンドヘルド作業機に搭載された。

刈払機「刈丸4 UMK422 / UMR422」

背負式動力噴霧器「WJR2210」

 このHondaハンドヘルド商品群の販売開始に当たり、刈り払い機による作業では保護具として必須となる安全メガネ(ゴーグル)を標準付属部品とするなど作業者の安全面に配慮した商品形態とした。後に刈払機の販売ではゴーグルの標準同梱は業界のスタンダードとなったが、Hondaは刈払機の発売当初から安全対策にも積極的に取り組んだ。

OHC機構などによりさらなる小型軽量化を達成したGX25

 Honda 4ストロークハンドヘルドエンジンの第一世代である「GX22/31」は、多くの作業機メーカーのハンドヘルド商品にもOEM販売され累計120万台以上の販売を記録する大ヒット商品となった。

 M4-1の発売から数年を経た後、更なる軽量化と出力向上の要望に応えるため、Hondaはパワーと軽量小型化を更に追求した通称「M4-0」エンジンの開発に着手。まず、更なる軽量・コンパクト化のために、重量・サイズ共に足枷となる4ストロークエンジンに不可欠のオイル室と動弁系室の配置から見直し、両者を集約するレイアウトを考案。この中に新開発「世界最小油中タイミングベルト」を使ったHonda独自のOHC機構を配置する事で他に類を見ない斬新な骨格構造を実現した。同時に排気量を拡大(22.2ccから25ccへ)する事で、パワーウエイトレシオが30%(M4-1比)向上し、商品力を大幅に高める事に成功向上した。

 更に環境規制対応についても世界で最も厳しいといわれた米国環境保護庁EPA(Environmental Protection Agency)のPhase2 NRSI(Small Nonroad Spark-Ignition“Engines”)排気ガス規制をクラス最高水準で適合。EC指令 NRMM(Non-road Mobile Machinery)排ガス規制 Stage2 (2007年実施)や、日本陸用内燃機関自主規制2次(2011年)も前倒しでクリアする環境性能の高さをみせた。

 M4-0エンジンは、2002年に「GX25(25cc 0.81kw[1.1ps]/7000rpm)として販売を開始。翌年(2003年)には上位出力帯の「GX35(35cc 1.2kw[1.6ps]/7000rpm)」も販売を開始し、既存機種である刈払機、噴霧器、に加え新たにハンドブロワ「HHB25」(2016年日本国内販売開始)などの商品に搭載された。

ハンドブロワ「HHB25」

M4-0エンジンはHonda以外のメーカーに向けたOEM供給も拡大。ハンドヘルド作業機用以外にも、小型耕うん機や水ポンプなどの家庭用から、ランマーなどの業務用に至るまで幅広い分野で活用されている。GX25/35は、2017年時点で販売開始から15年を迎えているが、毎年70万台以上の販売を記録し、ロングセラー商品となっている。

 耕うん機F150、発電機E300,芝刈機HR21など各分野でベストセラーとなったその裏には、目先にとらわれることなく10年以上先を見据えた商品開発があった。世界最軽量の4ストロークエンジンGX25/35もまた、未来を見据えたHondaの姿勢を体現したものである。