“見えない自然”を覗いてみよう!
顕微鏡のプロが教える自然観察術

更新日:2022.11.02

こいしゆうか
キャンプ場に顕微鏡!
新感覚の野外遊びを体験してきました。

こんにちは!こいしゆうかです。

みなさん、顕微鏡を最後に覗いたのっていつか覚えていますか? 「小学校や中学校の理科の授業以来縁がないよ」という方も多いのでは。かくいうわたしも顕微鏡とはずっと縁がなく、「なんか難しそう」というイメージすら……。そんな中、顕微鏡をアウトドアに持ち出して野外遊びを楽しんでいる人がいるという情報をゲット。遊び隊としては聞き逃せません、さっそく一緒にキャンプ場に遊びに行ってきました!

記事前半では、達人に教わる顕微鏡を使った野外遊び術を、後半ではすぐにマネできるスマホに装着するマイクロスコープを使ったお手軽観察術を紹介します。

慣れ親しんだいつものキャンプ場の景色が、まったく違って見えるようになるかも!?

今回教えてくれたのは

顕微鏡のスペシャリスト
田中 亨さん

カールツァイス株式会社
リサーチマイクロスコピーソリューション所属
公益社団法人 日本顕微鏡学会 公益事業担当者
坂田明&チームミジンコ メンバー
ミジンコ合宿&顕微鏡の会 主催者

大学や研究所等で顕微鏡に関する仕事や授業を行うかたわら、ミジンコをはじめとした微生物を顕微鏡で見ることの楽しさを伝える活動に公私ともども尽力。カールツァイス社の社会活動として自治体や企業とコラボした自然観察イベントを開催したり、プライベートではミジンコを採取してはそれを肴に観察しながら宴を楽しむ「ミジンコ合宿」を主催している。

“遊び隊 野外研究室”、オープン!?

た、田中さん。それはいったい……?

ん? これはですね、私の標本コレクションから持ってきた放散虫(ほうさんちゅう)という海にいるプランクトンの仲間で、ガラス細工のような美しさが……。

そうじゃなくて! キャンプ場に本当にそんな立派な顕微鏡をそのまま持ってくるとは思いませんでした!

いやいや、私はフィールドでこそ顕微鏡を使ってほしいと思っているんです。例えば、私が大好きなミジンコはゴマ粒よりも小さいため肉眼ではよく見えませんが、顕微鏡を使えば体の構造まではっきり観察することができます。顕微鏡は、フィールドに隠された“見えない自然”を観察するのに最適な遊び道具なんですよ。現場で見つけたものをその場ですぐ詳しく調べられる楽しさはやみつきになりますよ。

な、なるほど……! そうか、いわば野外研究室みたいなものですね! わくわくしてきました!

そうなんです。それに、先ほどの放散虫の標本もそうですが、顕微鏡で見える世界はシンプルにとても美しいんですよ。さっそくこのキャンプ場の微生物や植物などを観察してみましょう!

フィールドで観察遊びを
するときのポイント

顕微鏡で観察できるよう、電源が使えるサイトを利用しよう。
キャンプ場で採集するときは、立ち入りNGなエリアを確認しておこう。
敷地内の植物などを標本として採集してOKか、キャンプ場に確認しよう。
水辺に採集に行くときは、必ず大人が同行し安全な場所で行おう。

まずは「生物顕微鏡」で
ミジンコ観察にチャレンジ!

田中さんおすすめのミジンコを観察すべく、キャンプ場内の水場をめぐって採集していきます。水場に近づくので、ため池等に転落しないよう注意してくださいね!

ミジンコ採集・観察に使う道具

・すくい網(金魚ネット)
・紙皿(深皿)
・絵の具パレット
・空のペットボトル
・ガラス板(スライドガラス)
・スポイト(ピペット)

ミジンコは通年その姿を見つけることができますが、ベストなのは水温20〜25℃あたり。地域や高度にもよりますが、季節でいえば夏の盛りを避けた5〜6月、9〜10月ごろが見つけやすいんだとか。

居場所としては、汚れたところよりも水草の多く生えた澄んだ水場の方が多く生息しています。水たまりのような小さな水場にいることもありますが、池・湖・田植え前後の田んぼ・流れのあまりない川などの方が見つけやすいでしょう。

浅いところにいるのをすくい、水底の泥をさらうような捕り方はNG。紙皿の上ですくえたか確認したら、ペットボトルに水とともに入れてサイトまで持ち帰りましょう。

ミジンコのような微生物の観察には、生物顕微鏡という種類の顕微鏡を使います。特徴は、微生物のような小さな生き物の細部までしっかり観察できる倍率の高さ。採取してきたものをガラス板にのせてプレパラート(観察標本)をつくり、顕微鏡にセットすることで観察します。

おおおー!!!
かわいい! こんなにすみずみまでよく見えるんですね!!!

そうなんです! ミジンコはその愛らしい見た目も素晴らしいのですが、一番の魅力は「命が透けて見える」ところにあるんです。魚に捕食されないための透明な体をしているおかげで、食事から排泄、脱皮、繁殖まで、その命の営みのすべてをクリアに観察できるのがミジンコ観察の醍醐味ですね。

「命が透けて見える」、なんてロマンチックなフレーズ……! それと、この顕微鏡で見ると写真よりも対象が立体的に見えるような……?

よく気付きましたね。理科の授業で使うような廉価な顕微鏡だと平面的に見えてしまうのですが、ある程度本格的な顕微鏡を使うとピントの合い方によって立体的に見えるんです。ミジンコの厚みまでわかるような見え方を楽しめるのは、顕微鏡ならではですね。せっかくなので、私の標本コレクションも少し見てみますか?

放散虫(ほうさんちゅう):海に生息するプランクトンの仲間。

珪藻(けいそう):植物プランクトンの仲間。藻類。

万華鏡みたい!!!ミクロの世界にはこんなかわいいデザインが満ちてるんですね、素敵!

お次は「実体顕微鏡」で花を観察!

続いては、微生物のような小さなものではなく、ある程度大きさのあるものの観察にトライ。

今回は花をチョイスしましたが、木の実や昆虫などでも楽しく観察できるんだとか。

今度用いるのは実体顕微鏡という種類の顕微鏡。倍率は生物顕微鏡より低いですが、プレパラートを必要とせず、観察したいものをそのままセットすることができます。

実体顕微鏡は、少し変わった見え方をしますよ。どうですか?

あれー! さっきにも増して立体的に見える!!!
すごい3D感があります!

そうなんです。双眼の実体顕微鏡はふたつの光路を使って観察する顕微鏡で、右目と左目それぞれ角度が違った像が見えるので、対象を3Dのように立体的に観察できるんです。これも写真では味わえない、実体顕微鏡ならではの豊かな体験ですね。

くうう、この感動のすべてを写真では伝えられないのがくやしい……。これは顕微鏡が欲しくなっちゃうなあ…。

最後はスマホを使った“お散歩観察”へ!

豊かな自然観察体験ができる顕微鏡ですが、大きさや予算の問題もあり、導入に少しハードルがあるのも事実……。でも顕微鏡がなくても、お手軽にミクロな自然観察入門ができちゃうアイテムがあるんです。それがこちら!

持ち運びできるマイクロスコープです! 顕微鏡ほど高精細で立体的な観察はできませんが、4,000円前後で入手でき、初めの一歩にぴったり。アウトドアブランドから発売されているものもあるんですよ。今回は写真左のスマホに装着するタイプを使用しました!

このようにスマホのカメラ部分に装着すれば、クローズアップレンズとして使えるんです。

これなら持ち運びもできるから、お散歩しながら観察が楽しめるなぁ。撮りまくるぞー!!!

綺麗な花を見つけたので、近付いて撮ってみると……。

おおー!! たしかに顕微鏡とは見え方が違うけど、綺麗な写真が撮れる! これはお散歩の最高のお供かも!

季節外れのタンポポの綿毛も、マイクロスコープで撮ってみると……。

幻想的な写真がかんたんに撮れる! 本格的な自然観察には物足りないかもしれないけど、まずはこれでお散歩観察してから、特に気になったものは採集して顕微鏡で見ればより楽しめそう!スマホ片手にキャンプ場を一周してきちゃおっと!

おしべ・めしべ

花弁

お花や苔、岩なども覗いてみたら面白かった!自分のスマホでこんな写真が撮れるなんて感動……。やっぱりミクロの世界って面白い!!

アウトドアでの観察遊びは、発見の連続!

あー面白かった! 何度も来たキャンプ場だけど、こんなにカラフルだったりおもしろい模様のものにあふれてるなんて気付きませんでした。今日使ったもののどれかは欲しいけど、買うならどれがいいかなぁ。顕微鏡がほしいけど、使いこなすのが難しそうだしお値段もけっこうするから、やっぱりスマホ用マイクロスコープ……?

それぞれに得意なことや用途が違うから、ひとつに絞る必要はないですよ。最初のきっかけとしてスマホ用マイクロスコープもいいですが、やっぱり豊かな観察体験をくれる顕微鏡にもぜひチャレンジしてほしいですね。今ではお手頃な入門機から、抜群の性能のハイエンド機までたくさんの種類の顕微鏡が販売されているので、自分に合ったものがきっと見つかるはず。

今回使用した観察器具まとめ

スマホ用マイクロスコープ

・倍率:100〜200倍程度
・価格(目安):4,000円
・適した観察スタイル:スマホ片手のお散歩観察

ここがGOOD!
安価なので入門に最適。

ここはニガテ…。
平面的な見え方になってしまう。

実体顕微鏡

・倍率:8〜50倍程度
・価格(目安):2〜30万円
・適した観察スタイル:花や昆虫などの標本観察

ここがGOOD!
平面的な画像データにはない、より立体的な観察ができる。

ここはニガテ…。
微生物などの小さな対象の観察には倍率が足りない。

生物顕微鏡

・倍率:50〜1,000倍程度
・価格(目安):3〜100万円
・適した観察スタイル:微生物などの細かな観察

ここがGOOD!
小さな対象も高精細に観察できるので、本格的な観察ができる。

ここはニガテ…。
対象をスライドガラスに乗せる必要があり、少し手間がかかる。

なるほどー!! どれか1点だけ入手してもいいし、お手頃なスマホ用マイクロスコープからはじめて、美しく立体的な観察ができる実体顕微鏡や、微生物まで細かく観察できる生物顕微鏡へとステップアップしていく楽しみもありますね。お値段にもこれだけ幅があるなら、自分に合うものが見つかりそう。実体顕微鏡の立体的で綺麗な見え方に感動したので、入門機から買ってみようかな……!

顕微鏡というと「研究者さんや理系の方の使うもの」というイメージを持っていましたが、野外に持ち出せば童心にかえれる最高の遊び道具になりました。ミクロの世界へ足を踏み入れてみれば、いつものキャンプ場もきっと未知の光景であふれた新鮮な場所になることまちがいなし。次のキャンプのお供に、ぜひ顕微鏡やマイクロスコープを連れ出してみてください。でも小さな世界に夢中になって転ばないように、足元にはくれぐれも気をつけてくださいね!

今回の遊び場

有野実苑オートキャンプ場
〒289-1222 千葉県山武市板中新田224-2
https://arinomi.co.jp/

企画協力:カールツァイス株式会社
今回登場したクルマ:フィット

※このコンテンツは、2022年11月の情報をもとに作成しております。