第1日目
フランスとスペイン国境、ピレネー山脈山中に位置するアンドラ。この小さな国で、世界選手権第9戦は開催された。アンドラのこの会場は、ここ数年使われ続けているが、今回の大会に限っては極端に難易度が高く、観客にとってもセクションが遠く観戦しにくい等、さまざまな問題を抱え込んだ大会となってしまった。
金曜日におこなわれたセクションの下見では、選手からセクション設定に対しての不満の声が上がっていたが、オーガナイザーはこれを聞き入れず、セクション変更は行われないまま、土曜日の大会が始まった。
競技前半は水の流れる沢のセクション群である。第1セクションは極端にイージーだったが、第2セクション以降は難しすぎた。トップライダーこそ、まれに3点以内で脱出することができたが、ほとんどのライダーは5点。5点でないとすれば、ベタ足の3点がやっと。世界選手権といえど、むずかしければいいというものではない。これは無用な難易度と思われた。
セクション後半は、沢を離れて乾いた岩と急斜面が舞台となっていたが、ここには多くの危険が待ち受けていた。ほとんど不可能に近い登りは、ライダーにとって危険なだけではない。特に第11セクションは多数の落石があって、観客にとってもたいへん危険なセクションとなった。セクション脱出がまったく不可能と判断した多くのライダーは、セクション入り口に前輪を入れただけで、誰も最後までトライしようとしない。ドギー・ランプキン(Montesa-HRC)とグラハム・ジャービス(Sherco)だけが第11セクションをきちんとトライしたが、しかしあっさりと5点である。
第13セクションもまたハードな登りだった。多くの観客が見守る中、ほとんどすべてのライダーがエスケープ。ランプキンはチャレンジしたが、これまた5点となる。
こんな大会にあって、1ラップ終了時点でトップに立ったのが減点36点のマーク・フレイシャ(Sherco)だった。続いて39点のジャービス、さらにマーク・コロメ(Gas-Gas)が41点。ランプキンは42点、藤波貴久(Montesa-HRC)43点と続く。藤波はイージーな第15セクションで5点をとってしまったのが響いてこの途中経過である。
第2ラップ目に入ったところで、雨が降り始めた。雨はまたたく間に豪雨となり、セクションをシャワーのような勢いで洗い流していく。乾いていたセクションはみるみるスリッパリーに変化した。第2ラップの減点が増えているのはこのせいだ。
こうして条件が悪化する中、ランプキンは持ち前の集中力をもって後半戦に挑み、2ラップ目を40点で消化した。これは2ラップ目のベストスコアとなった。
1ラップ目トップだったフレイシャの2ラップ目は42点、トータル78点はこの日のベストスコアとなった。フレイシャが今季初の優勝。これで世界選手権2勝目となった。ランプキンの追い上げは届かず2位に。そして前戦で優勝したばかりのジャービス(Sherco)が3位となった。藤波はジャービスに遅れること3点で4位となり表彰台を逃してしまった。
第2日目
前日のセクション設定の不手際に反省したか、主催者は8個にも及ぶセクションに変更を加え、セクションは誰にとっても可能性が見えるものとなった。
前日に降り始めた雨は、一晩中激しく降り続いて、朝になってもなお残っていた。こんな中で、この朝の主催者は、いい仕事をしたというべきだ。
前日のトップ4、フレイシャ、ランプキン、ジャービス、藤波の4人は、第3、第4セクションで、多くの時間を割くことになった。というのも、この頃になって雨が上がり、たっぷり濡れたセクションが太陽の力でぐんぐん乾いていたからだ。
ランプキンは集中力を乱して第4セクションで5点。藤波は第6セクションでクラッシュし、川の中に転落してしまった。すべてのセクションが新しくなってしまって、土曜日の経験は生きなかった。日曜日は、また新たな挑戦となったのだ。
ダイビングからの、藤波の復旧はすばらしかった。その後の藤波の集中力と冴えたライディングは、この日のハイライトの一つだった。1ラップを終えて、藤波のスコアは12点、これにマーク・コロメ(Gas-Gas)が14点で続き、ランプキン、ジャービス、フレイシャが16点の同点で並んでいる。
藤波の災難は、今回もっとも簡単だった2ラップ目の第1セクションでの5点となってしまったことだ。藤波のライディングに対し、オブザーバーはマーカーを飛び越したとして5点を宣告したのだ。
理不尽な判定だったが、抗議をしている時間が藤波にはなかった。他のトップライダーと同じく、藤波も2ラップ目は脱兎のごとくセクションを消化していかなければいけなかった。そして他のトップライダーといえば、ほとんどが減点10点以下で2ラップ目をこなしていた。
驚くべきはランプキンの2点、さらにはジャービスの1点だった。2ラップ目のこの結果は、ジャービスが1点差でランプキンを破って優勝を決めたことを意味していた。そしてランプキンはこの入賞で5度目の世界タイトルを決定したのだった。3位はフレイシャで、藤波はフレイシャに続いての4位だった。
藤波は、第1セクションの判定に対し、プロテストを提出した。現時点では、藤波のプロテストが受け入れられたかどうかは明らかになっていない。抗議の結果如何では、藤波は3位、あるいは2位になる可能性もある。
|