3カ月が過ぎてみれば、釣り上げたイワナは31匹だった。
そのすべてを湖に戻した作家の開高健さんは、
キャッチ&リリースという釣りのスタイルが持つ大きな意味を、世の中の釣り人たちに訴えかけた。
45年前の夏のことである。
そのすべてを湖に戻した作家の開高健さんは、
キャッチ&リリースという釣りのスタイルが持つ大きな意味を、世の中の釣り人たちに訴えかけた。
45年前の夏のことである。

冬の間、一般観光客は銀山湖に辿り着くことはできなくなる。 新潟県の魚沼市街から銀山湖に通じる国道352号線は、11月初旬から冬季閉鎖がはじまり、延々とトンネルが続く奥只見シルバーラインも、年明け早々の1月には通行止めとなるからだ。
湖畔の銀山平温泉にある6軒の旅館は、国道352号線の閉鎖に合わせて一斉に冬季休業に入るのだが、前回ご紹介した旅館、村杉の佐藤洋一さんも、今年の場合は11月8日に最後のお客さんを送りだした後、冬季休業の準備を済ませて山を下りた。しかし場所は日本有数の豪雪地帯である。降雪期ともなれば、近隣の旅館仲間とともに定期的に除雪のために宿に戻ってこなければならない。道は特別に通行許可を得ている奥只見シルバーラインを使い、一般車両が通らなくなったトンネル内に車を停め、出口の先は事前に用意しておいた雪上車を頼りに、それぞれの宿へと向かうのだそうだ。
トンネルの先の気圧されるほどの雪。
銀山湖のそれは見たことはないが、想像に難しくない。
奥只見シルバーラインは4月になると閉鎖が解除され、それに合わせて4月10日から村杉も営業を再開する。春スキーの客で賑わうそうだ。釣り人は10月1日から4月20日までのイワナ、ヤマメ、鱒などに対する禁漁期間を待って投宿する。解禁日を迎えた釣り人は、竿を片手に勇躍するものだが、解禁日直後の銀山湖の釣りについて、村杉のホームページに注意が出ている。
それによると、奥只見ダムが冬季減水中のために水際が遠くなり、桟橋に行くためには剝き出しとなった湖底を1時間ほど歩かねばならないとある。それに岸辺の雪崩に注意が必要と書かれている。
銀山湖は、岬のように突き出た鼻(突先)や、地元で「出合」と呼ぶ川からの流れ込みや、無数にある沢口近くが釣りのポイントである。つまり、岸ベタに船を進ませて竿を垂れることが多くなる。そうなると危険なのが雪崩だ。
「岸辺で釣りに夢中になっていると、突然崩れた雪のかたまりが頭の上から音も無く落ちてきますからね。危ないですよ」
これは村杉を訪ねた時に、佐藤さんからお聞きした言葉だ。
佐藤さんは解禁日直後に釣りをしたいという釣り人の心理を理解している人だが、はじめて銀山湖で釣りをするのなら、5月のゴールデンウイーク以降に一度来てからにした方が良いという。冬の厳しさが諸所方々に残る銀山湖の自然環境を知ってもらいたいからだ。
湖畔の銀山平温泉にある6軒の旅館は、国道352号線の閉鎖に合わせて一斉に冬季休業に入るのだが、前回ご紹介した旅館、村杉の佐藤洋一さんも、今年の場合は11月8日に最後のお客さんを送りだした後、冬季休業の準備を済ませて山を下りた。しかし場所は日本有数の豪雪地帯である。降雪期ともなれば、近隣の旅館仲間とともに定期的に除雪のために宿に戻ってこなければならない。道は特別に通行許可を得ている奥只見シルバーラインを使い、一般車両が通らなくなったトンネル内に車を停め、出口の先は事前に用意しておいた雪上車を頼りに、それぞれの宿へと向かうのだそうだ。
トンネルの先の気圧されるほどの雪。
銀山湖のそれは見たことはないが、想像に難しくない。
奥只見シルバーラインは4月になると閉鎖が解除され、それに合わせて4月10日から村杉も営業を再開する。春スキーの客で賑わうそうだ。釣り人は10月1日から4月20日までのイワナ、ヤマメ、鱒などに対する禁漁期間を待って投宿する。解禁日を迎えた釣り人は、竿を片手に勇躍するものだが、解禁日直後の銀山湖の釣りについて、村杉のホームページに注意が出ている。
それによると、奥只見ダムが冬季減水中のために水際が遠くなり、桟橋に行くためには剝き出しとなった湖底を1時間ほど歩かねばならないとある。それに岸辺の雪崩に注意が必要と書かれている。
銀山湖は、岬のように突き出た鼻(突先)や、地元で「出合」と呼ぶ川からの流れ込みや、無数にある沢口近くが釣りのポイントである。つまり、岸ベタに船を進ませて竿を垂れることが多くなる。そうなると危険なのが雪崩だ。
「岸辺で釣りに夢中になっていると、突然崩れた雪のかたまりが頭の上から音も無く落ちてきますからね。危ないですよ」
これは村杉を訪ねた時に、佐藤さんからお聞きした言葉だ。
佐藤さんは解禁日直後に釣りをしたいという釣り人の心理を理解している人だが、はじめて銀山湖で釣りをするのなら、5月のゴールデンウイーク以降に一度来てからにした方が良いという。冬の厳しさが諸所方々に残る銀山湖の自然環境を知ってもらいたいからだ。


作家の開高健さんは、釣りエッセイ「フィッシュ・オン」の取材で、1970年に銀山湖を訪ねているが、それは雪の残る5月下旬のことだった。
イワナを狙った釣行だったが、このときは一匹も釣れなかった。それについて、濁った雪代と湖水温度が低すぎたためだと自身で分析している。そして翌月に再訪し、待望の48センチのイワナを釣り上げた。このあと、ひとまず東京に戻り、いまだ電気が通じていない銀山湖に3カ月間こもるための準備を整え、同月に再々訪する。そして村杉の前身の釣り宿、村杉小屋と廊下でつながった、隣る小屋の二階に荷物を広げた。 このとき持ち込んだ荷物について、「フィッシュ・オン」に「リュックに原稿用紙とインキ瓶をつめ、横浜の船舶道具店へいって石油ランプを買った。また、出力100Wのホンダの小型発電機も買った」とある。佐藤さんも「開高さんは赤い小さな発電機を持ってきた」と記憶している。
イワナを狙った釣行だったが、このときは一匹も釣れなかった。それについて、濁った雪代と湖水温度が低すぎたためだと自身で分析している。そして翌月に再訪し、待望の48センチのイワナを釣り上げた。このあと、ひとまず東京に戻り、いまだ電気が通じていない銀山湖に3カ月間こもるための準備を整え、同月に再々訪する。そして村杉の前身の釣り宿、村杉小屋と廊下でつながった、隣る小屋の二階に荷物を広げた。 このとき持ち込んだ荷物について、「フィッシュ・オン」に「リュックに原稿用紙とインキ瓶をつめ、横浜の船舶道具店へいって石油ランプを買った。また、出力100Wのホンダの小型発電機も買った」とある。佐藤さんも「開高さんは赤い小さな発電機を持ってきた」と記憶している。




Hondaは1965年に、携帯発電機の代名詞ともなったE300という発電機を発売している。
当時の小型の発電機のパワーユニットは2ストロークエンジンであり、高い周波数の照明専用の電源として存在していたに過ぎなかった。そうした中でE300は、キャンプやボートなどのレジャーに使えるようにと軽量コンパクトに開発され、直流電源としても使える出力300Wの実用性と優れた静粛性を誇った。E300がHonda初の市販モデルとして世界各国で人気を呼んだことは言うまでもない。ちなみにHonda初の発電機は、1964年に開発されたE40という超軽量コンパクトな発電機だった。このE40の開発には、Honda創業者の一人である本田宗一郎社長(当時)が、親交のあったソニーの創業者の一人である井深大社長(当時)から、1962年にソニーが発表した世界初の携帯用ソリッドステート・オールトランジスタテレビの電源として、携帯発電機の開発話が持ちかけられたという背景があった。
E40の商品化は実現しなかったが、超小型で家電製品を思わせるキュービックデザインという斬新で画期的な意匠はE300に継承された。
開高さんが45年前の銀山湖に持ち込んだ「出力100Wのホンダの小型発電機」は、E40の流れを組んで、1969年に発売されたE100というモデルと思われる。E300がテレビ電源から各種電動工具まで使える300W/60ヘルツに対し、E100は100W/180ヘルツと高周波で使用機器の制約はあったが、超軽量コンパクトで持ち運びがしやすく価格も手頃だった。
当時の小型の発電機のパワーユニットは2ストロークエンジンであり、高い周波数の照明専用の電源として存在していたに過ぎなかった。そうした中でE300は、キャンプやボートなどのレジャーに使えるようにと軽量コンパクトに開発され、直流電源としても使える出力300Wの実用性と優れた静粛性を誇った。E300がHonda初の市販モデルとして世界各国で人気を呼んだことは言うまでもない。ちなみにHonda初の発電機は、1964年に開発されたE40という超軽量コンパクトな発電機だった。このE40の開発には、Honda創業者の一人である本田宗一郎社長(当時)が、親交のあったソニーの創業者の一人である井深大社長(当時)から、1962年にソニーが発表した世界初の携帯用ソリッドステート・オールトランジスタテレビの電源として、携帯発電機の開発話が持ちかけられたという背景があった。
E40の商品化は実現しなかったが、超小型で家電製品を思わせるキュービックデザインという斬新で画期的な意匠はE300に継承された。
開高さんが45年前の銀山湖に持ち込んだ「出力100Wのホンダの小型発電機」は、E40の流れを組んで、1969年に発売されたE100というモデルと思われる。E300がテレビ電源から各種電動工具まで使える300W/60ヘルツに対し、E100は100W/180ヘルツと高周波で使用機器の制約はあったが、超軽量コンパクトで持ち運びがしやすく価格も手頃だった。
参考文献: フィッシュ・オン(開高健著・新潮社版)/ 白いページI、II(開高健著・角川文庫)
取材協力: 村杉
〒946-0084 新潟県北魚沼郡湯之谷村銀山平温泉 TEL:02579-5-2451(冬季02579-5-2528)
営業期間:4月10日〜11月10日
文・写真:大野晴一郎
取材協力: 村杉
〒946-0084 新潟県北魚沼郡湯之谷村銀山平温泉 TEL:02579-5-2451(冬季02579-5-2528)
営業期間:4月10日〜11月10日
文・写真:大野晴一郎