最近、日本各地で、釣れる魚の種類に変化が起きています。その中には、サワラブリキハダキビレのように、よく釣れるようになった魚もいれば、アイナメやカレイのように減ったといわれるものもいます。日本の海では何が起きているのでしょうか?

サワラやブリの分布域が北上

近年、東京湾で注目が高まっているルアーフィッシングの対象魚がサワラです。成魚は最大で1.2mになり、ルアーに果敢にアタックしてきて、食べても美味しいのが魅力。ただ、東京湾でねらって釣れるようになってきたのはここ5年ほどで、西日本では若魚のサゴシを含めて昔から人気がありましたが、東日本ではなじみの薄い魚でした。

近年、東京湾で釣れるようになった大型のサワラ。ブレードの付いたジグでねらう

サワラの分布に変化が見られるようになったのは1990年頃からです。南方系の魚であるサワラが、それまで漁獲がなかった日本海で多く水揚げされるようになりました。石川県の能登半島の漁師が定置網に掛かったサワラを見て、初めはなんの魚かわからなかったという話もあります。同時に京都の若狭湾や新潟などでも、それまでは見られなかったサワラが大量に獲れるようになりました。その主な原因と考えられているのが、日本近海における海水温の上昇です。(※1)

北海道ではブリ釣りがすっかり定着。漁業での漁獲も大幅に増えた

北海道の日本海側でブリがたくさん釣れるようになったのもこの頃からです。ブリは暖流に合わせて沿岸を回遊、春から夏にかけてはエサを求めて北上し、秋から冬にかけては越冬や産卵のため南下する性質があります。それまでもブリが北海道で獲られることはありましたが、釣りの対象になるほどではありませんでした。ところが2010年頃から、漁業での水揚げ量が一気に増加。釣りでもよくねらえるようになり、短期間で函館沖や積丹沖の日本海だけでなく、オホーツク海でもブリが釣られるようになりました。

釣り方はジギング。シーズンは初夏から秋になる

海水温の上昇が起きている理由は?

海水温の上昇については、北太平洋ではレジームシフトと呼ばれる、数十年規模の変動があることが元々知られています。水温が冷たい寒冷レジーム(マイワシスケトウダラの漁獲が増える傾向がある)と、温かい温暖レジーム(カタクチイワシスルメイカの漁獲が増える傾向がある)があり、1990年以降は温暖レジームに入っているとされていますが、近年は再び寒冷レジームへの移行期に入ってきているという見方もあります。(※2)一方で、日本の近海では2021年までの100年間で海域平均海面水温が上がっており、全国平均で+1.28℃の上昇率。なかでも日本海は上昇率が大きく、日本海中部と南西部で+1.57℃ほど、日本海中部の冬季に限ると+2.45℃ほどとなっています。(※3)その原因ははっきりとはわかりませんが、いずれにしてもサワラやブリの分布の変化も大きくはその影響によるものと考えられます。

マグロやアカハタが釣れるようになった相模湾

変化はほかの魚や釣りにも見られます。神奈川県の相模湾で夏の風物詩となったキハダ(通称キハダマグロ)もその1つ。キハダは熱帯性のマグロで、水温が18~31℃の海域に分布しています。夏から秋にかけては北上し、冬は南下する季節回遊をしますが、キハダの釣りといえば、これまでなら久米島など沖縄地方へ行くか、海外へ遠征するというのが常識でした。しかし、2007年に相模湾にもキハダが回遊していることが確認されると、以降も継続して回遊が見られるようになり、2014年には40kgを超える成魚が、そして2022年には90kgを超える成魚が釣られるまでになったのです。

相模湾のキハダは回遊がすっかり定着。釣れるサイズも年々アップしている

キハダが相模湾へ回遊するようになった理由は大きく2つあると考えられていて、1つはキハダも好むパヤオ(浮き漁礁)が相模湾に設置されたこと。そしてもう1つは、やはり海水温が上がったこと(前出の海域平均海面水温で関東沖海域は+0.96℃ほどになっている)が指摘されています。相模湾では南方系の魚であるアカハタもよく釣れるようになっており、それまではねらって釣ることは少なかったものが、ルアーフィッシングや船釣りで人気の対象魚となっています。

陸からも船からも釣れる機会が増えたアカハタ

冷水性の魚は減少している

もちろん、増える魚がいれば減る魚がいます。アイナメとマコガレイはいずれも釣りで人気のある魚ですが、どちらも温暖レジームに入ったとされる1990年代頃から、九州、大阪湾、東京湾など分布域の南部で「まるで釣れなくなった」という声が増えています。アイナメはホッケの近縁種であり、マコガレイを含むカレイの仲間は冷水域に多いことからわかるように、両種は元々北方系の魚です。生息環境の悪化など他の要因にも目を向ける必要はありますが、やはり海水温の上昇傾向が大きく影響していると思われます。海が暖かくなることで増える魚がいれば、当然ながらその裏返しとして減る魚もいるのです。

東京湾で釣れたマコガレイ。かつては代表的な釣りものの1つだったが、近年はめっきり数が少なくなった

増えている理由も1つではない

クロダイの仲間であるキビレ(正式和名はキチヌ)は、元々西日本に分布していましたが、1990年代頃から関東でも普通に見られるようになり、今では東京湾やその流入河川でよく釣れるようになっています。東京湾も湾奥の最低水温がここ30年で1℃近く上昇したことがわかっていますが、単純にそのことでキビレが増えたというよりは、湾岸エリアの都市化によるヒートアイランド現象、流域人口の増加による下水の増加、一部の河口域での自然回復、さらにはキビレ自体が持つ特性(産卵が秋のため夏場に東京湾で発生する貧酸素水塊の影響を稚魚が受けにくい)など、さまざまな要因が重なっているようです。

クロダイと共存しながら生息を広げているキビレ

実際の海の変化は複雑で、たとえば太平洋側なら黒潮の流路(現在は2017年に始まった大蛇行が継続しています)なども釣れる魚の種類に影響します。レジームシフトも同じ傾向が続く可能性もあれば、上述のとおり寒冷レジームへ移行する可能性も指摘されています。日本の海や魚はこの先どんな変化をするのか? 新しい魚や釣りが登場したら、その背景にも目を向けると興味の幅が広がります。

(参考)
※1「地球温暖化が引き起こす海水温上昇と漁業の関係」(水産界2020・3)
※2「海洋環境の変化と水産資源との関連」(水産庁ホームページ)
※3「海面水温の長期変化傾向(日本近海)」(気象庁ホームページ)

※このコンテンツは、2022年12月の情報をもとに作成しております。最新の情報とは異なる場合がございますのでご了承ください。