編集長公認デート?のはじまり
草食男子を救え!
「ったく最近の若いヤツは……」
思わずそう言いかけて口をつぐむ。悩むのは
編集長の仕事みたいなものだが、いま、彼の頭痛のタネは若手編集部員の生活の荒廃っぷりである。
ヒゲを剃ってこない/頭はボサボサ/いつも同じ服を着ている/カップ麺を常食/徹夜をいとわず働く……最後のひとつはまぁ、会社的には歓迎すべきことではあるが、それにしてもお前ら、彼女とかいないわけ?
「いません!」
明るく元気に即答したのはルアー雑誌担当のササキ。サーファーじゃあるまいし、ビーチサンダルで会社に来るのはやめろと言っているのだが、今日もペタンコペタンコ歩き回っている。
「朝から晩まで仕事ずくめで出会いなんてないっす」と別の声がつぶやく。入社1年目のオチアイだ。「だらしねえなぁ、オレが20代のころは……」というセリフが喉まで出かかった時、編集長はあることに気づいた。パソコンを見つめたまま、妙に満ち足りた表情でキーボードを叩いているオチアイ……。ひょっとして、これが草食男子というヤツか!?
美味魚を釣って女子大生をおもてなせ!
欲望の枯渇は活力の減退を招き、やがて仕事にも支障をきたす、というような記事をどこかで読んだ気がする。3年以内に辞める新入社員が多いのもきっとそのせいだ。
と、そこで思い出したのが先日、編集部を訪ねてきた女子大生たちのこと。ゼミで観光について学んでいて、釣りのことを知りたいという奇特な女の子だった。彼女たちに協力してもらえば……よし!「釣りに興味のある女の子がいるんだけど、連れてってくれない? 釣りたての魚を食べたいんだって。遠州灘にいい場所があり、今が旬の
マゴチや
スズキがねらえるから、それを食べさせてあげなさい。とはいえ、キミらへっぽこにはハードル高いかもしれんから、
シロギスや
テナガエビでもいいぞ」
ササキの目の色が変わった。
「ちなみに、もうひとり必要なんだけどなぁ」
急に席を立ってウロウロしはじめるオチアイ。こんな風にして2人は、デートだか合コンだかよくわからない釣りキャンプへと旅立つことになったのである。
天気晴朗なれどフグばかり
草食男子先発隊、出動!
「ここはどこ?」
「静岡県です」
「ギャルはどこ?」
「いません。あとから来るそうです。っていうかササキさん、なんで短パンなんすか」
午前4時半。2人の目の前には遠州灘が広がっていた。すぐ目の前をシラス漁の船が行き交っている。右も左も、見渡すかぎり荒涼とした砂浜。釣りデートにはあまりに殺風景なロケーションではないか。
「だからササキさん、これはデートじゃないですから」
「じゃあ何なんだよ」
「僕たちはいわば、食料調達係ですね」
オチアイが冷静に分析する。一緒に来るはずだった女の子たちに「朝早いのはヤダ」と言われてしまい、結局あとで合流するハメになってしまったのだ。そりゃあ深夜1時に出発するなんて、釣りバカじゃなきゃやってらんないけど。
「がんばってオカズになる魚を釣らないと、たいへんですよ!」
「なんだかダマされてる気がする……」
食べられない魚が入れ食い
ぶつくさ言いながら2人は釣り仕度を始めた。ここは天竜川河口のすぐ東にある砂浜で、波が高いため遊泳は禁止。この時期は
投げ釣りでシロギスや
イシモチをねらう釣り人の姿が多く見られる。
あらかじめ情報を仕入れていたオチアイは、
アオイソメをエサにシロギスをねらう作戦だ。それほど難しいターゲットではないし、4人分の食材を確保するにはキスの数釣りがいちばん手堅いと踏んでいた。
一方、ササキは数釣りなど眼中にない。ルアーを投げて一発大物ねらいである。砂底に潜むマゴチか、あるいはスズキか。とにかく高級魚を仕留めようと鼻息が荒い。
だが、キャストを始めた2人は海中のゴミに悩まされることに。ここ数日の雨で天竜川が増水しているせいだ。さらに濁りが入っていて、シロギス釣りの条件としては好ましくない。仕掛けを遠投して、岸際まで探ってくると「ガツガツッ」と明確なアタリがあるのだが、釣れてくるのはフグばかり。
「オチアイ君、
クサフグは皮と内臓を除けば食べれるらしいぜ」
「お願いですから女の子の前ではそんなこと言わないでくださいよ、ドン引きされますよ」
アタリのカケラもないギャンブラー・ササキはとうとう海辺を離れ、どこかへ向かって歩きはじめた。
※注:フグの素人料理は厳禁です!!
※撮影:浦壮一郎/文:水藤友基
※このコンテンツは、2010年7月の情報をもとに作成しております。最新の情報とは異なる場合がございますのでご了承ください。