CRM 250 AR - 1997

CRM250AR
CRM250AR
 

開発の狙い



 歴代のCRM250Rシリーズは「大地をより自由に楽しく、ダイナミックに、そして速く走りたい」というオフローダーの意志を実現するため、「PROSPEC ENDURO」の基本コンセプトのもと、2サイクル・フルスケール250ccランドスポーツとして「エンデューロレースNO.1のオフ性能」を追求し今日まで熟成を重ねてきました。
 そしてこのコンセプトは、CRM250Rの進化によって将来も変わることなく継承され、モーターサイクルファンの皆様にオフロード走行の楽しさを感じていただきたいとホンダは考えています。
 近年、地球環境問題が大きくクローズアップされ、よりクリーンなモーターサイクルが求められる時代になってきました。
 このような世の中にあっては、ただ「速い」、「楽しい」だけでは、2サイクル・ランドスポーツとして、社会的に生き残っていけない環境となりつつあります。
 また一方で、2サイクルエンジンは同一排気量の4サイクルエンジンと比べて、軽量、ハイパワーという大きなメリットがあり、特にレースやツーリング等の使用勝手において、数多くの2サイクルファン、とりわけオフロードファンが存在することも事実です。
 そして、これらの2サイクル・オフロードファンの強い要望に応えながら、社会的要求である環境問題にどう対応してゆくかが、次期CRM250Rに課せられた最大のテーマでした。 
 そしてこの答えこそが、CRM250Rを将来にわたって世の中に長く存続させるための大きなキーポイントとなり、同時にCRMが今後の2サイクル・ランドスポーツの方向性を決定付ける重要な位置付けの車になるということも視野に入れて検討を重ねてまいりました。
 そして、得られた解答はただひとつ、2サイクル・ランドスポーツとしてオフロード性能を維持向上させながら、より環境適合性を高めたCRM250Rを開発するという最も技術的難易度の高い選択でした。
 この最も両立の困難な技術テーマにあえて取り組みました。そして、250cc市販車として量産化することが、ホンダの社会に対する責任と考え、開発当初、まだ実験研究段階にあったクリーン&エコノミーな「AR燃焼コントロールシステム」の採用を決定しました。そしてこのエンジンを搭載し、さらなるオフ性能の進化と公道バイクとしての進歩を図り、より優れたCRMを造ることを目的として、今回の開発テーマを「TOPを走り続けるCRM」とし、開発目標を「AR燃焼エンジンによる次世代の走り」としました。

AR燃焼エンジンの量産化
 AR燃焼域のメリットは「燃費の向上」、「排気ガスエミッションの低減」にありますが、これまで4サイクルに対しCRMの劣っていたこれらの点をAR燃焼によって改善し、環境適合性をより向上させると同時に、AR燃焼のもう一方の特徴である「パーシャルトルクの向上」と「不整感の低減」を活用し、さらなる動力性能と質感の向上を図るということが今回CRMにAR燃焼を採用した理由です。一方、AR燃焼はエンジン全回転域ではなく、スロットル低開度の領域のみで行われます。
 しかし、この領域は現行モデルで実現した、“オフロード走行時の抜群のトラクション性能”を発揮する部分でもあり、AR燃焼用に考えられたエンジン仕様とリーンな燃調の中で、このトラクション性能との両立はかなり難しく、膨大なテストと実験を繰り返す必要がありました。
 そして、AR燃焼実験車EXP-2で得られたデータを参考に開発をスタートし、その後の研究開発の結果、ピークパワーを維持したままパーシャルトルクを向上させるとともに、オン・オフを問わずドライバビリティに優れ、不整感の少ないスムーズなクルージング性能が得られるなど、基本性能を維持向上させながらも、4サイクルエンジンに迫る燃費の向上と、大幅なエミッションの低減を高い次元で成立・バランスさせたこれまでの常識を覆す次世代2サイクルとして、「革新のAR燃焼エンジン」の量産化に成功しました。


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