FCX FACT BOOK
FCX 2004.12
Honda FCスタック 2
新開発「金属プレスセパレーター」を採用。優れた導電性と熱伝導性により、低温始動性を向上しました。
■セパレーター性能比較一覧
セパレーター性能比較一覧
直列配置されるセル同士の隔壁であるセパレーターは、電子の通り道になることから、優れた導電性が求められます。同時に、発電にともなって生成される水を凍らせないために、熱伝導性(昇温性)も重要となります。Honda FCスタックは、これらの性能を飛躍的に高めるために、金属プレスセパレーターを採用。電気を通しやすく、しかも温度変化に影響されない、という金属の特性を活かし、従来のカーボンセパレーターに対して-20℃で1/4まで接触抵抗を低減したことで優れた導電性を実現。さらに、カーボンセパレーターの半分の厚さに成形できるなど、熱伝導率が5倍に向上。その結果、スタック全体を素早く均一に暖めることができ、発電開始から暖機までの時間を大幅に短縮しました。これらにより、アロマティック電解質膜の氷点下での発電性能をフルに引き出しています。
セパレーター接触面導電性の向上 低温始動性(昇温性)の向上
FCX—V3に搭載のHondaスタック
導電性・熱伝導性と耐腐食性を両立した、新開発ステンレス鋼板。
導電性と熱伝導性の双方をより効果的に得る手法として、金属素材はこれまでも注目されてきました。しかし、通電による酸化・腐食を防ぐための酸化皮膜処理によって抵抗が増えてしまうため、従来まではカーボンセパレーターが使用されていました。この背反する課題をクリアするために、Honda FCスタックの金属プレスセパレーターはステンレス系素材をベースに、極めて電気を通しやすい導電性粒子を分散させ、そのうえでベース材に酸化皮膜処理を施しました。これにより、酸化・腐食を防ぎながら強制的に通電させる道筋を設けることで、優れた導電性と熱伝導性を実現しています。
■新開発ステンレス鋼板(拡大図) ■断面イメージ図
新開発ステンレス鋼板(拡大図) 断面イメージ図
金属プレスセパレーターの採用とシンプルな構造によって、FCスタックの軽量・コンパクト化を
実現し、世界トップレベルの出力密度を達成しました。
セパレーター厚さ比較
従来のスタックは、カーボンセパレーターと別体でシール材を用いる必要があり、しかも高い気密性を得るために、ディスクスプリングやバックアッププレートを設け、大型ボルトで締結していました。これに対しHonda FCスタックは、強度に優れた金属プレスセパレーターを採用し、カーボンセパレーターより厚さを50%削減。しかもシール材と一体成形を可能にしたことでセル単体でいっそうの薄型化を実現し、部品点数も削減しました。さらに、金属プレスセパレーターのバネ性を利用することで、積層したセルをパネルで囲むだけのシンプルなスタック構造とし、スタック全体で部品点数を半減。FCスタック本体の軽量・コンパクト化を達成しました。これらにより、従来比2倍以上で世界トップレベルの出力密度(容積や重量に対する出力の比率)を達成し、高出力・高効率化を実現しています。
Honda FCスタック構造比較
FCX-V3に搭載のHondaスタック
加湿ユニットとのモジュール化や補機類の一体化などにより、コンパクトな燃料電池システムを実現しました。
燃料電池システムボックス構造図
[FCX]は燃料電池システムボックスのスペース効率を高めるために、金属プレスセパレータによって軽量・コンパクト化を可能にしたFCスタックを2基に分割して配置し、この小型分割という特徴を活かして加湿ユニットを一体モジュール構造としました。これに加え、構成部品の統合(集積)化や補機類の一体化など、システム全体を高効率にレイアウトすることで、コンパクトな燃料電池システムボックスを実現しています。
生産性を高め、リサイクル性も向上しました。
金属プレスセパレーターは一般的なプレス技術で成形できることや、シール材との一体成形を可能にしたことで、成形・加工時間を大幅に短縮。これにより生産性が向上しました。また、金属であることからリサイクル性に優れるなど、将来の量産化を見据えたFCスタックを実現しています。
燃料電池とは
クルマからCO2や排出ガスを出さない究極のクリーン性能。
燃料電池スタックは、水素と酸素から電気をつくり、水だけを排出します。
[FCX]で採用している燃料電池スタックは、「水素(H2)」と「酸素(O2)」との電気化学反応によって、化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する固体高分子膜型の発電装置です。「水(H2O)」を電気分解すると「水素」と「酸素」ができるという原理の、逆の反応とイメージすることもできます。しかも、水素と酸素を供給することで発電を継続的に行い、電気とともに水を同時に生成するため、CO2や有害物質をいっさい排出しないクリーンシステムを実現しています。 燃料電池スタック発電原理
発電のしくみ
水素極(-)に水素を送り込むと、水素は電極(白金)の触媒作用で水素イオンに変わり、電子を放出します。
電子を放出した水素イオンは、電解質膜(イオン交換膜)を通過し、酸素を送り込まれた酸素極(+)の酸素および放出され外部回路を経由した電子と結びつきます。
この作用によって、直流電流が発生し通電され、発電。副生物として酸素極で水が生成され、その水を一部加湿にも利用します。
燃料電池スタックの構造と各部のはたらき。
とても薄い固体高分子膜[陽子(陽イオン)を交換するポリマー膜]でできた電解質膜をふたつの電極層(水素極/酸素極)や拡散層で挟み、MEAを形成。これをセパレーターで両側から挟んだ状態で、1組のセルを形成します。このセルを積層体(スタック)にし、ひとつひとつが発電することで大きな電圧を発生させます。
燃料電池スタック構造図
[MEA(=Membrane Electrode Assembly/膜電極接合体)]
燃料電池における発電反応をおこす領域で、水素(H2)を水素極で陽イオン(H+)とe-に分離し、電解質膜を介してH+のみを酸素極に運びO2と反応してH2Oにします。一方、分離したe-が外部回路を通過することで電気エネルギーを取り出します。

[電解質膜(イオン交換膜)] 水を含有することで電解質となり、陽イオン(H+)のみを通過させることのできる固体高分子膜。ガスの遮断性および電気絶縁の役割も持っています。

[電極層] 水素と酸素の酸化還元反応を行わせる層で、反応性を向上させるために触媒を含有しています。

[拡散層] 電解質膜とセパレーターのあいだにあり、反応ガスを電極層に均一に拡散させます。

[セパレーター] 燃料電池にはMEAの両極に水素と酸素を供給するための通路が必要です。また、発電反応に伴って反応熱が発生するため、それを冷却する冷媒の通路も必要です。これらを混合することなく独立して流す役割があります。さらに、MEAで生じた電気は、セパレーターを直接通電して運ばれます。



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