NSX - 1990.09

NSX

NSX
 
BODY


コンピュータ解析とサーキットテストでボディ剛性を熟成。
鉄の約60%の重量で、充分な剛性を確保。
現代のテクノロジーでは、新しいクルマを開発する場合、テスト車を作成しなくとも、必要なボディ剛性などはある程度計算によって得ることができます。
しかしスポーツカーという新たなジャンルに挑んだホンダは、すべてを一から創造。開発に取り組んでから、何度もテスト車を作成。
コンピュータ解析に加え、各地でのサーキットテストを並行して行なうことで、スポーツカーとして求められるボディ剛性を徹底して熟成させました。
前述のようにアルミの比重は鉄の1/3で、剛性も1/3ですが、等価面剛性板厚は1.4倍。従って、この板厚を剛性向上のために最適化することで、軽量化にも効果的な高剛性ボディを実現することが可能となります。そのために、コンピュータ解析を駆使。これにより、ボディの重要な構造体であるフロント・サイドフレーム、サイドシル、リアフレームなどアンダーボディの基本フレームの断面を大きくとり、しかも剛性効率のよい押し出し成形とするなど、ボディ剛性を向上させています。
さらにNSXでは、いわゆる計測機械では計りきれないフィーリング的な部分の剛性感をも向上させることをめざしました。
そのため、サーキットテストを実施。とくにニュルブルクリンクでは、テストドライバー、設計者、試作の技術者など、スタッフが熔接機などの必要機材を持ち込み、世界で最もハードとされるこのサーキットでより速く走るために必要な剛性を徹底して追求。高速走行時やコーナリング時などの剛性感について、テストドライバーからの意見をもとに、20ヵ所以上にわたり仮の補強を施し、これらを取ったり付けたりしながら、様々なケースの情報を入手したわけです。
これらを随時、コンピュータにフィードバック。その解析結果をもとに、ドライバーのフィーリングと実際の構造との差異を調べ、構造変更、板厚を増すなど量産化のための置換を行ない、最終的には曲げ剛性で3.0×105kg×m2、ねじり剛性で3.2×105kg×m2/RADを実現。スチールの約60%の重量で、高い剛性をもつモノコックボディとしています。

ボディ

アルミボディの実現を容易にした、
新開発のNSX専用トランス内蔵スポットガン。
オールアルミボディ実現のためには、さまざまな難問が待ち構えていました。熔接も、その一つです。NSXでは、鉄の場合と同様に、スポット熔接を基本としました。
スポット熔接は、熔接する2つの素材の両側を電極ではさみ、瞬間的に電流を通し、素材と素材の抵抗により発熱させ、それぞれの素材を溶かし、冷却後に接合した状態とする方式です。
しかし、アルミは電気をよく通し、熱伝導率もいい、という2つの特長をもち、鉄に比べてスポット熔接しにくい材料です。そこでホンダは、まず材料からのアプローチを行ないました。
熔接したさいの高い強度と安定性を条件に、数多くのアルミ合金のなかからスポット熔接に最も適した特性のアルミ合金を選択、ボディ素材として使用しています。
また一方で、ボディの開発と同時に、新しい熔接機の開発に取り組みました。というのも、鉄が7,000〜12,000アンペアなのに対し、アルミは瞬間的に20,000〜50,000アンペアの電流が必要であり、相対的に鉄よりも板が厚く、へこみタフネス性も高いため、加圧も鉄の200〜300kgfに対しアルミは400〜800kgf必要でした。
従来の2次ケーブルスポットガンでは、電圧を電流に変換するトランスの後ろに、長い2次ケーブルがあり、これでアルミに必要な電流を流すと、電流が大きいために電流損失が多く、効率が非常に悪いわけです。そのため、ガン自体にトランスを内蔵させた、専用トランス内蔵式スポットガンを新たに開発。この問題をクリアしています。
このスポット熔接に加え、たとえば細く長い形状のフロントピラーなど、フランジレスで熔接が必要な部位については、アーク熔接を採用しています。

ドライバーの安全に寄与するとともに
軽量化も実現した、パイプ式ドアビーム。
横からの衝突などに対応し、これまでのプレス凸断面式に代えて、パイプ式ドアビームを採用。衝撃からキャビンを守る高強度を実現すると同時に、軽量化ももたらしています。   パイプ式ドアビーム

上塗りに、水性ベースコートを採用。
鏡のような光沢をもたらす、4コート4ベーク塗装。
より滑らかで色鮮やかな外観を実現するために、上塗りに水性ベースコートを採用した4コート4ベーク(4層塗装・4層焼き付け)塗装を行なっています。しかも、ボディ外板に平滑性に優れたアルミや樹脂を用いることで、ベースの品質自体を高め、より水性塗装が生きる方法を用いています。
具体的には、まず、熔接を終えたアルミボディを脱脂。化成の皮膜をつける処理をしたのち、電着塗装。この前処理行程では、すべてに均一な処理をもたらすため、ボディを180°回転させて塗装する方式を導入しています。
次の第1中塗り、第2中塗りでは、仕上り時の色合いに深みをもたせるベース色を塗装。そして上塗りでは水性ベースコート、クリアコート。水性塗料は、ゆっくりと時間をかけて乾燥するため表面の均一性が高く、鮮明で深みのある色合い、鏡のような光沢の、高品位な外観をもたらします。また、水性塗料はアルミ箔を混入した場合も、ゆっくり乾燥するため、アルミ箔の方向性が均一となり、メタリックの美しい仕上りを可能としています。

高品位な塗装外観品質をもたらした
ソフトフェースバンパー及び外板樹脂部品。
ロアボディは雨天時や洗車時に水滴が残りやすいうえ、石はねなどによる損傷を受けやすいため、フロントバンパーを兼ねたフロントノーズ、リアバンパー、サイドシルガーニッシュを樹脂化。
これにより、防錆性能と対ダメージ性能を高めています。
より高品位の塗装面を生むために、従来のウレタン材ではできなかった、高温での水性塗装に取り組みました。そのため、フロントとリアのバンパーに、平滑性と耐熱性に優れた新素材ポリエステル系エラストマーを使用。バンパーを意識させない滑らかなフロント・ノーズを可能にするとともに、万一の衝突時にもエネルギーを吸収する5マイルバンパーとしています。
また、この他にも、優れたボディ塗装に見合った高品位な外観をもたらすために、同様に水性塗料を用いることを条件として、機能性・防錆性の向上、外観向上、軽量化などの目的から、ヘッドライトリッド、フューエルリッド、リアスポイラーには水性ベースコート対応の外板樹脂を用い、エンジンフード、ウインドシールドロアガーニッシュには耐熱性を重視したものを起用しています。

ソフトフェースバンパー及び外板樹脂部品 ソフトフェースバンパー及び外板樹脂部品




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