NSX - 1990.09

NSX

NSX
 
CHASSIS


ホンダが独自に磨きあげてきたシステムを、
さらに熟成した
4輪ダブルウイッシュボーン・サスペンション。
M・R方式の優れた運動性能を生かすために、サスペンションの果たす役割は、きわめて大きいといえます。とりわけ、高速走行時の直進安定性や旋回時の安定性は、イニシャルのアライメント設定だけでなく、トー変化やキャンバー変化などのダイナミックな条件下でのアライメント変化によっても大きく左右されるため、走行時の条件に合わせて適切な特性を与えることが不可欠となってきます。F-1をはじめとしレーシングマシーンや多くのスポーツカーに採用されているダブルウイッシュボーン・サスペンションは、その意味で数々のサスペンション形式のなかでも、アライメントやジオメトリーの設計自由度が高く、またダンパーに曲げ力が加わらず本来の目的であるショックの吸収に専念できるなど、本来的に優れた基本特性をもっているものです。
4輪ダブルウイッシュボーン・サスペンションに長い歴史と伝統をもつホンダは、持てるノウハウをNSXのなかに集約。優れた基本特性を生かしきるとともに、新たにアルミ鍛造のアームやアルミ鋳造のナックル、新開発のコンプライアンス・ピボットを採用するなど、独自のテクノロジーを駆使してM・R方式に最も適した高度なシステムにまとめあげることに成功しました。
並はずれた直進安定性と驚くほどのコーナリング性能、さらには長距離走行も苦にならない快適な乗り心地を両立させた、理想的なスポーツ・サスペンションを実現したのです。

フロント・サスペンション上面図
フロント・サスペンション上面図
リア・サスペンション上面図
リア・サスペンション上面図

低く、精悍なスタイリングをもたらした
インホイール型サスペンション。
一般にダブルウイッシュボーン・サスペンションは、その優れた特性の反面、他の形式と比べて、構造が複雑になりやすいため重量と大きさの点で不利な面をもっています。そこでホンダは、サスペンションの具体化にあたり、次のポイントを重要テーマに掲げました。
それは、(1)サスペンションそのものの高さを下げること。(2)構成部品を少なく、構造面からシンプルに、そして軽くすること。(3)不快な振動を減少させるため、キングピンとタイヤセンターのオフセット量を小さくすること、です。
NSXはそのため、フロント・リアともに、アッパーアームとロアアームをホイールの内側に内蔵したインホイール型とすることにより、サスペンション自体の高さを低くおさえ、ひいてはボディの低全高化をもたらしました。同時に、理想的なアライメント特性を確保したうえで、構造をシンプルに、しかも軽量化も達成。また従来、インホイール型ダブルウイッシュボーンは、アライメントを保持するためにブッシュを固める必要があり、乗り心地が悪くなりがちでしたが、新開発のコンプライアンス・ピボットにより、これも解消しています。
NSXの狙いである、低全高化と軽量化を実現し、そのうえで徹底して高性能を追求したのが、この新開発のインホイール型サスペンションです。
  インホイール型サスペンション

操縦安定性と乗り心地をみごとに両立。
独自の機構をもつ、新開発コンプライアンス・ピボット。
操縦安定性と快適な乗り心地は、サスペンションのアライメント剛性からいえば、相反する要素をもっています。何故なら、操縦安定性のためには硬いサスペンションが必要であり、ソフトな乗り心地のためには、柔らかなサスペンションが要求されるからです。
NSXは、次世代のスポーツカーとしてこの難問を解決するため、ねじり方向に非線形特性の強いブッシュを用いた、新構造のアルミ鍛造コンプライアンス・ピボットをフロント・サスペンションに採用。ピボットの回転により、充分なコンプライアンス機能を確保したうえで、つねに各アームの位置を最適に保ちます。
また、ブレーキングによるアライメントの変化もおさえ、安定した姿勢を確立。いろいろな外力によるアライメント変化を最小にすることで、本来必要なアライメント変化をより確実なものとして、操縦安定性と乗り心地を高度に両立しました。
  新開発コンプライアンス・ピボット

■コンプライアンス・ピボットの作動
(1) 前方向から力が加わった場合、ロアアームとアッパーアームのそれぞれが、後側取り付け部を支点として、後方に回転しながら、その力を前側取り付け部よりコンプライアンス・ピボットに伝えます。
(2) コンプライアンス・ピボットは、ロアアームとアッパーアームの前側取り付け部ごと回転し、内蔵する非線形特性のブッシュにより、前方向からの力をスムーズに吸収します。
(3) この動きによって、ロアアームとアッパーアーム、タイロッドのタイヤ側取り付け部が後方に移動し、わずかにトレッドが変化するだけで、他のアライメントに影響を与えることなく大きなコンプライアンスを確保しています。
 
フロント・サスペンション
 
(4) ブレーキモーメントMは、ナックルを回そうとする回転力となり、ロアアーム、アッパーアームにF(L)、F(U)となって入力されます。
それらはアームを介してf(L)、f(U)となって、コンプライアンス・ピボットに伝達されますが、これは内力となってピボット内で打ち消しあう(充分な剛性で支持されているため)のでキングピンの角度変化がほとんど生じないため、ブレーキング時のキャスター角、キャンバー角変化は極小となります。
 
図




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