LiB-AID E500 for Music
開発者インタビュー

Hondaが発電機で培った技術を投入
キレイな電気を生み出すインバーター技術

鈴木 : ところで、Hondaとして持っていたリチウムイオン電池とかインバーター回路に関する技術は、どのように投入されたのでしょうか?

小野寺 : 蓄電機を2017年に発売する以前、リチウムイオン電池を使ってこんなに大きな容量の製品を作ったことがありませんでした。ですので、まずは安全性について、あらゆる使い勝手を想定し集中的に検討しました。

次にバッテリー製品は使用時間に制限がありますし、使い方によっては容量劣化の問題も発生します。そこで出力とバッテリー容量のバランスについて検討しました。このふたつが蓄電機開発の一番のテーマだったのです。電気の綺麗さについては、発電機で培った今まで通りの電源品質を貫こうという方針でした。

そのインバーター自体は以前から持っていた技術で、性能が優れていることは社内でも分かっていました。今回のE500 for Musicでもベースとなった蓄電機と同じ回路を搭載しています。

鈴木 : インバーター回路の基板を拝見するとオーディオ機器でも良く採用されている高品位のコンデンサーを使っています。あれはベースの蓄電機も同じなのでしょうか?

小野寺 : そこは変えていません。極端な話、弊社のインバーター発電機に繋いでもベースの蓄電機と同レベルの音は鳴らせます。ただ発電機は排気ガスも出ますし騒音も出しますので、とてもホームオーディオの電源にはなりませんが。

鈴木 : それはそうですね(笑)。

小野寺 : Hondaのインバーター回路は昔から技術要件が非常に厳しいです。蓄電機の時は、家庭用を考えていたので、もっとレベルを下げてもいいんじゃないかという意見もありました。

しかし電装品の担当者からは、そんなことはできないと言われました。インバーターは同じ品質でないと駄目ですと。ですので、蓄電機も交流100Vが取れるアウトドア用の電源としてはかなりおごった回路設計になっています。

E500 for Musicに搭載されているインバーター回路の基板

鈴木裕さんが注目した電解コンデンサー。性能の根幹であるインバーターユニットには小さな部品の一つ一つも高品位なパーツが採用されている。

オーディオクオリティーを目指して
パーツレベルまで徹底してこだわる

鈴木 : E500 for Musicにはオーディオ愛好家も気になるパーツが多く使われています。これらはどうやって選んだのでしょう。

進 : 蓄電機からE500 for Musicに変更する際には、どうすれば電源品質を高められるかと、オーディオ機器が多くある環境ではどうしても電磁波ノイズが出てくるので、オーディオ用の電源としてそれらの影響を受けないような仕様にしていきたいと考えました。

電源品質については、電気の供給経路をきちんとしようと考えました。インバーター回路からコンセントに繋がる電源ラインの質を向上させるため、オーディオグレードのケーブルを使うことに決めたのです。

またコンセントについては、フルテック社製のコンセントがオーディオ愛好家に評価が高いとの調査結果があり、それを参考にして選びました。車ならレカロ製のシートを選ぶような発想ですね。

その上で、実際にその組み合わせで音の違いを確かめる必要があります。そこで、いろいろなケーブルやコンセントを組み合わせて音を聴きながら進めました。最終的にはオヤイデ電気製の精密導体「102 SSC」と「GTX-D NCF(R)」コンセントに落ち着いています。

コンセントにはフルテック社のハイエンドグレード、インバーターユニットとコンセントを繋ぐ電源ケーブルにはオヤイデ電気の精密導体とオーディオで定評あるパーツが採用された。

進 : フルテックのコンセントを取り付けるコントロールパネルは、新規に開発しました。蓄電機は樹脂製で、E500 for Musicはアルミとマグネシウムの合金「ヒドロナリウム」製です。フルテック社のコンセントが持つ性能を引き出すために、剛性と制振性に配慮した結果です。

鈴木 : よく、そんな合金を使おうと考えましたね。

進 : 社内には材料領域の専門家もいますし、オーディオ好きのメンバーの「微振動を吸収することが大事」という意見も参考にしました。

小野寺 : 材料を研究している人間にたまたまオーディオマニアがいて、彼は特にマグネシウムがお気に入りなのです。彼の意見は強かったですね(笑)。

E500 for Musicではコントロールパネルはアルミ合金。ベースモデル用の樹脂製(上側)と見比べると搭載するコンセントが違うためわずかに形状が異なる。

鈴木 : しかし、ここまで複雑な形状をひとつのパーツで作るとなると、金型も大変だったでしょう。

進 : コントロールパネルをどう造るかは我々が設計するのですが、提示された材料は剛性や制振性に優れる一方で、流動性が低い扱いにくい素材だったので、この形に仕上げるのはとても大変でした。

小野寺 : また、ベースとなる蓄電機は、お客様の買いやすさの実現や組み立て性もあって部品点数をできるだけ減らしたかったので、いくつかの部品を統合してひとつのパーツに仕上げています。

そういった前提がある中で、E500 for Musicは樹脂からアルミ合金に材料を替えてコントロールパネルを造ることになったので、大変でした。もし最初からアルミ合金で造るのであれば、違う形状にしていたと思います。

わずかなノイズも見逃さない
万全を尽くしたノイズ対策

鈴木 : ホームオーディオにおいては、インバーター電源はいいイメージはありませんでした。どちらかというとノイズを出す存在のように思われてきたのです。しかし、E500 for Musicはまったくそんなことがない。ノイズ対策もかなり気を配っているのでしょうね。

手前は内側に電磁波シールド材を施した外装樹脂パーツで、上側はベースモデルのもの。均一に塗布されたシールド材が効果を発揮する。

小野寺 : ノイズとしては、ラインノイズと放射ノイズの2つに着目しました。ラインノイズは壁コンセントに電源を繋いだ際に、ケーブルを伝わってくるものです。これはダイレクトにオーディオに影響しますが、今回、バッテリー電源とすることで完全に切り離すことが出来ました。また、インバーター自体が発生するラインノイズも抑えられています。

放射ノイズは、内部回路に電気が流れる際に発生するノイズです。普通は外に出ないようにアルミボディや鉄板で囲むことで放射を抑えることが出来ます。蓄電機もインバーター自体を鉄板で囲っているのですが、E500 for Musicでは、さらに樹脂ボディの裏側に電磁波シールド材を施しているためかなり手が込んでいます。

鈴木 : よくぞシールドしてくれました! 内側から出るノイズもあるでしょうが、最近は外から入ってくるノイズも多いので、これは効果的です。

小野寺 : 私も最初はこういった形で電磁波をシールドできることは知らなかったのですが、いろいろ調べていくうちに効果的な方法に辿り着きました。一枚一枚を均一な塗布厚で塗っているので、かなり手間がかかっています。

蓄電機などの通常の製品開発では、コストをどこまで抑えるかが重要なのですが、E500 for Musicに関してはある意味でコスト度外視でした。いい製品をお客さんに届けたいという想いから、効果が高いパーツを選ぶようにしたのです(笑)。

例えばフルテック社のコンセントも電極のメッキが24金とロジウムの2種類あって、24金のコンセントのサウンドも聴きやすくて、こっちがいいのではないかという意見もあったのですが、今回はよりバッテリー電源の長所が感じられる組み合わせとしてロジウムメッキを選んでいます。

鈴木 : ロジウムメッキは分解能が高く情報量が出てくるので、オーディオ愛好家には好まれます。ただし一方では、音の温度感が低いのは好みが分かれるところですね。

今回のコンセントはNCF(ナノ・クリスタル・フォーミュラ)を使ったパーツで、NCFは振動を抑制して音をまろやかにしてくれるのでバランスのいい音に感じられます。

進 : 電磁波シールドの手法も、最終的にはシールド材の処方を選んでいますが、当初はメッキや蒸着といった手法も検討しました。何パターンもサンプルを造って、どれが最適かを調べて開発を進めていきました。

E500 for Musicは、本体の5面に電磁波シールドが施され、外部からのノイズにもしっかり対策されている。