LiB-AID E500 for Music
開発者インタビュー

Hondaがおこなった「音を作らない音作り」
目指したのはオーディオの性能を引き出す電源

鈴木 : 試聴を終えて総合的に言うと、S/Nや分解能が高いのは当然として、このソースは本来こんな音楽だよねという音で楽しめました。音楽を聴く楽しさを感じられるようになってきたのが素晴らしい。

またバッテリー駆動にすると音が綺麗になる反面、力感が出なくなることも多いのですが、E500 for Musicはそんなことがなかったですね。低音の量自体は減っているかもしれないけれど、締まった音で純度高く再現されます。
E500 for Musicを開発されていたおふたりは今日の音を聴いて、どんな感想を持たれましたか?

小野寺 : まさに狙い通りというか、自分たちがやってきたオーディオ電源が実現できていたんだと感じ、鈴木さんのお話を嬉しく聞かせていただきました。

開発時にも、電源を蓄電機に変えただけで解像度が上がり、音の量が多く、細かくなるのは確認できました。ただ長く聴いていると、少し高音がキツい、尖った音に感じたのです。ロックやポップスなどなら充分聴けるし、人によってはこれで良いという話もあったのですが、私の中では音が若干尖りすぎているという印象で、曲によっては聴いていて満足感が薄くなる時がありました。

鈴木 : いわゆる『聴き疲れのする音』ということですね。

小野寺 : 我々はオーディオ機器を作っているわけではないので、音に個性をつける必要はないと判断し、聴いた後に満足感のある音を目指そうということにしました。

例えば、パーツを変えていくと『まろやかな音』にもなるのですが、そんな風にサウンドをいじりすぎるのも違うと思ったのです。その結果、E500 for Musicはこの音を実現できる電源に落ち着きました。自然に聴こえる、満足感の得られる音です。

LiB-AID E500 for Music LPLの進 正則 研究員(左)、DPLの小野寺泰洋 研究員(右)ともに本田技術研究所 ライフクリエーションR&Dセンター PG開発室所属

鈴木 : チェックに竹内まりやのCDを使っているのは日本人の声なら、ニュアンスや年齢といった細かいことまで分かるからです。

蓄電機だと若々しいニュアンスになって、それはそれで好ましいのですが、オーディオ用としてはこの曲を歌っていた年齢、1989年当時の彼女の声に近づくのが正しいと思います。E500 for Musicではそれができていました。

進 : 我々Hondaはオーディオのプロではないので、サウンドの聴感評価はとても難しかったのですが、今日の試聴はサウンドの違いが分かりやすかったですね。もともとは電源として供給する電気の品質を高めることで、音のクオリティーに貢献できないかと思っていました。CDプレーヤーからプリアンプ、ひいてはスピーカーなどのオーディオ機器の性能をフルに引き出す電源を作りたいと開発チームのメンバーと語り合っていたのです。

今日も壁コンセントから蓄電機、E500 for Musicと聴き比べて、音がドンドン鮮明になって、聴きやすくなってきました。本来の竹内まりやさんの声に近づいているとサウンドに評価をいただき、とても嬉しかったです。

Hondaがなぜオーディオ電源を?
たった5%の声に動かされた製品開発

鈴木 : ここからは改めて、Hondaがオーディオ用にバッテリー電源を開発した経緯について教えていただきたいと思います。最初は、蓄電機のユーザーからオーディオ用に使ったら音がよくなったという反響があったのがきっかけだったそうですね。

進 : Hondaでは以前から、ガソリンエンジンで動く発電機を手がけていました。ただ、ガソリン式の発電機は屋内で使えないということもあり、2017年に蓄電機を発売しました。リチウムイオンバッテリーを搭載した小型・軽量ながら充分な出力を持った電源です。当初は、場所を選ばない“どこでもコンセント”というコンセプトだったのですが、発売してみたら想定とは異なる様々な使い方が出てきました。

1965年に発売したHonda初の発電機E300と2017年発売の蓄電機E500

進 : 特にオーディオ愛好家はいい電源を求めている方が多いようで、ユーザーアンケートにも熱いメッセージをいただきました。そういった声に応えるためにHondaの蓄電機が使えるのではないかというところから始まったわけです。

鈴木 : では、2017年に蓄電機を開発した段階では、オーディオ用電源という発想はなかったのですか?

小野寺 : まったくありませんでした。もちろん屋外のキャンプなどで音楽を聴くといった意味での、手軽なBGMの電源としての使い方は想定していました。

ただ、話に出ていたアンケートでも、オーディオ愛好家の方は本当にギッシリと回答を書いてくれて、その内容が凄かったのです。名前を聞いたことのないアンプやスピーカーの型番が記されていて、調べてみたらかなり高額なシステムに蓄電機を使ってくれていたのです。その熱意がとにかく凄くて、印象に残りました。

それもあり、漠然とキャンプや釣り、天体観測などの用途が挙げられる中で、決め打ちでオーディオ用が欲しいと熱烈に言われてしまうと、これは何とかしなくてはいけないということになって、段々と開発チームみんなの気持ちも動いていったのです。

正直にお話しすると、最初は私たちには、オーディオ機器の電源を変えると音が変わるということ自体が理解できなかったのですが、やってみると確かに変わる。それなら、そこを極めていこうと考えました。

鈴木 : そうだったんですか。蓄電機を購入された方のアンケートでは5%くらいがオーディオ用に使っているとの回答があったそうですね。

進 : その5%の中に、さらに熱い方がいらっしゃって、逃れられなくなってしまいました。もともとHondaの発電機は屋外で使う物でした。それもあり、蓄電機で想定した使い方も基本的に屋外用途ばかりでした。

しかしそこにひとつだけオーディオという宅内で使う使い方が入ってきた。家の外で使うことを意識した製品なのに、ひとつの用途だけ屋内に向いている。『オヤッ』と感じるわけです。割り合いで約5%というのはマーケティングの立場からは切り捨てるべきデータなのかもしれませんが、そうするには届いた声があまりにも熱かったのです。

アウトドアを楽しむポータブル電源として開発された蓄電機E500

オーディオに関するノウハウはゼロ?
門外漢だから起こる苦労の連続

鈴木 : そんな経緯でE500 for Musicの開発がスタートしたわけですね。開発メンバーはオーディオ好きな人たちだと思いますが、それは会社がチームとして集めたのか、自主的に集まったのか、気になるところです。

進 : 開発チームにオーディオの専門家がいたわけではありません。通常の製品開発と同じで、設計やパッケージング、材料領域を含めた各部野の専門家で構成しています。

ただ社内にもオーディオ好きがいますので、彼らの協力をもらいながら開発を進めました。周りにいるオーディオ愛好家が意見を持ち寄ってくれますので、小野寺や私はその意見を聞きながら、製品に反映していったという形です。

小野寺 : これは個人的な意見ですが、あまり開発チームを強く色づけしてしまうのもどうかと思います。方向性に偏りが出ますので。

鈴木 : E500 for Musicは今年10月に商品を発表されましたが、ベースとなった蓄電機は2017年の9月の発売でした。つまり2年間で、実質的なオーディオに関して技術的なノウハウがなかった状態からここまで仕上げたというのは凄いと思います。

小野寺 : 技術系メーカーでは一般的なことですが、パワーにしても燃費にしても性能が数値で表現できるので、必ず数値化して定量的に説明する必要があります。漠然としたイメージとか感想を言っても受け入れて貰えません。目標値がいくつで、それに対して今どの位置にいるから、あと何日で達成できるといった話が必要なのです。

開発している中ではそこが一番厳しく、高音が出てきたとか、なめらかさが再現できたとオーディオ的な表現で説明しても、では何がいくつからいくつになったのか、何%変化したかを定量的に説明することがなかなか出来ず苦労しました。

鈴木 : そういう苦労を経て生まれた製品は、必ずきちんとした物に仕上がっています。Hondaという自動車やバイクなどでモノ作りの実績のあるメーカーの風土があったからこそ、E500 for Musicはここまでバランスのいい製品になったのかもしれませんね。

LiB-AID E500 for Musicはベースとなった蓄電機の発売から2年の期間で開発された