NSXのエンジンは、ひとりの技術者が丹精を込めて組み上げている。Hondaの栃木研究所の近くにあるホンダエンジニアリング栃木技術センターでおよそ1日に1台。まさにハンドメイド感覚でつくり上げられるのだ。
この工場は、量産システムの研究などを中心的に行っている工場で、エンジンの組み立てはNSXやS2000、インサイトなど限られたクルマのみ。いわば、生産技術の研究所的役割を担う拠点である。ちなみに、人気のロボット、ASIMOもここでつくられる。
NSX-Rのエンジンは、その栃木技術センターでレーシングエンジン同等以上のこだわりで組み上げられている。そのこだわりとは、クランクシャフトまわりの回転重量の精密なバランス取りである。
通常、重量バランス取りは、ピストン、コンロッド、クランクシャフトなど単体で行われる。しかし、NSX-Rの場合、クランクシャフトにピストンとコンロッドを想定したウエイトを取り付け、フライホイールを組み込んだクラッチカバー、ベルトを回すプーリーまでを組み上げて行う。
すべてを一度組み上げ、バランス計測マシンにのせてクランクまわりのウエイトの偏りを測定。フライホイールの内側をハンドドリルでわずかに削り、重量を調整して再測定。さらに、ハンドドリルで削る・・・という作業を何度も繰り返す。こうした作業は、一般的なレーシングエンジンでも行っていないかもしれない。作業には1台のバランスを取るのに1〜2時間もかかる。量産エンジンでは想像もできないほどの時間だ。担当するのは、社歴23年のベテラン技術者で、「F1エンジンに勝る回転バランスに挑む」という意気込みで作業を行っている。
この重量バランス取りは、タイヤを装着したホイールを回転させてバランスウイエトを装着する“ホイールバランス”と同じ考え方。だたこちらは、ウエイトを装着するのではなく、ドリルでフライホイールなどを削ってマイナス方向でバランスを取っていく。
一度に削るのはわずか数グラムか1グラム以下。ドリルは、ほんの一瞬回すだけだ。そして再びクレーンで吊り上げバランス計測マシンに移し、プーリーにベルトを掛け回転させて測定する。とにかく手間のかかる作業だ。
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