NSXプレスvol.28 Topへ
Photo ジョン・ラム ジョン・ラム
  米国在住の世界のトップモータージャーナリスト。米Road&Track誌などに寄稿する。
  Hondaと他のメーカーを分けているものは何だろうかと時々考える。Hondaが、日本の他のメーカーともおそらく世界のどのメーカーとも一線を画しているのは、長くモータースポーツに関わり、その歴史に培われた伝統が生産する自動車に直接間接的に影響を与えているからだろう。
私はいつもHonda車のことを「レーシングカーのエッセンスをどこかに有しているクルマ」と表現している。今回ツインリンクもてぎ内にあるホンダ・コレクションホールを訪ねて、その意を強くした。

ホールの正面に飾られた1924年式カーチス・スペシャルからは、レース好きだった本田宗一郎の情熱が伝わってくる。その横に並ぶ輝かしい歴史に彩られた錚々たるモーターバイクの数々にも圧倒される。しかし自動車好き、レース好きの私は、グランプリカーの一台、一台に釘付けにされる。Hondaが初めてF1に挑戦した時のクーパー・クライマックス、縦置き12気筒の1964年式RA271など、枚挙に暇がないほどだ。特にRA272は戦後のグランプリカーの中でも私の大好きな一台だ。その独創性もさることながら、当時のHondaエンジニアの工夫と苦労の跡が見て取れて感慨深い。

私は1961年のF1ドライバーズ・チャンピオンであるフィル・ヒルと一緒に50台以上ものヴィンテージ・レーシングカーを取材し、ストーリーを作ったことを誇りに思っているが、彼とともに鈴鹿でHonda RA271を取材した時のことは、フィルとの想い出の中でも未だにベスト3に入っている。あの鈴鹿で聴いたエンジンの音は生涯忘れないだろう。

コレクションホールを訪れれば、NSXは作られるべくして作られたクルマであることがよくわかる。もちろんHondaは他にも最初のS500から最新のS2000まで、時代を築き上げたスポーツカーを作っているが、NSXだけは別格である。なぜならNSXは世界の並み居る最高級スポーツカーに敢然と挑戦し、その素晴らしさを証明して見せたスポーツカーであるからだ。
     
    アメリカで高い評価を得ているロード&トラック誌の行った最初のNSXのロード・テスト記事から引用したい。『NSXは非常に欠点の少ないクルマである。技術的にNSXは素晴らしく、動力性能的にも群を抜く出来だ。魂をゆさぶる走りとロングツーリングにも適した乗り心地よさの共存というカメレオン的な性格は、従来の最高級スポーツカー市場を変えた』

しかし私はNSXがもう一つ、とても重要なことを成し遂げていることを身をもって知っている。それは、NSXが出て間もない頃、フェラーリ348との比較テストの撮影を頼まれたときのことだ。その日は暑い日で出発時に気温はすでに30℃近くになっていた。そして不運なことに我々は砂漠を目指すことになっていたのだ。2台のクルマが我々の手元に届いた時には、フェラーリのエアコンはすでにお手上げ状態だったし、348を運んで来てくれた人はルーフ・パネルをはずして少しでも涼をとろうと苦労していた。さりげなくNSXに乗り込んだのだが、室内はほどよく冷えていて、まるで天国だった。
フェラーリのほうはオーバーヒートが心配だった。NSXに関しては心配することなど最初から考えもしなかった。NSXがHonda車だからだ。

NSXは、それまでのぬるま湯的なスポーツカー市場に活を入れ、フェラーリやランボールギーニといったメーカーに恐怖感を与えたのだ。
そして数年後、我々はNSXがもたらした影響の大きさを改めて実感することになる。フェラーリがNSXに対する答えとして世に送ったF355に乗ったとき、このクルマをここまで変えさせたのはNSX以外の何ものでもないと強く感じた。NSXの存在なしに、フェラーリがここまで洗練かつ文明的になることは、多分無理だったに違いない。
     
 
  そしてフェラーリは360モデナをつくり、NSXのスタンダードに追いついたと言う人たちもいる。もちろん、逆を返せば1990年のデビュー当時から、NSXがそれほど先進的だったことになる。特にオールアルミボディを開発するのにフェラーリはそれから9年もかかっている。

その間にもNSXは進化を続けた。NSXが長年、全面的なモデル・チェンジを行っていないことを批判する人たちもいるが、彼らは秀逸なスタイリングゆえに1963年のデビュー以来、約30年間、オリジナル・ボディ・スタイルを堅持し続けたポルシェ911のことを忘れているのだ。現在の996でさえ見方によっては、オリジナルのフォームを保っていると言える。
3月に日本に行ったときに、1960年ル・マン24時間のウィナーであり、いまや世界で最も尊敬されているポール・フレールと私は、好運にもそのプロトタイプを含む4台のNSXに乗るチャンスに恵まれたのだ。

初代のNSX-Rにはいい意味での粗暴さが備わっていた。ほんの少しチューン・ダウンしたレーシングカーのようなセンセーションとでもいったものだ。
そして満を持して新型NSX-Rプロトタイプを試す。カーボンファイバー製のシートに身を低く沈める。シフト、ステアリング、ブレーキ、といった武器はハード・ドライビング用にセッティングされている。クルマからも極限のドライビングを試せるようチューンされていることが伝わってくる。

テストの前に開発段階での目標数値の達成を説明してくれたが、Hondaのエンジニアが自信もなく我々にクルマを試させることがあることなど一度として疑ったことはない。走り始めてすぐに気がついたのは、ノーマルNSXでのミドル・レンジ・スピード・コーナーの安定感が、新型NSX-Rでは高速コーナーで得られているという事実だ。シフトアップ・ポイントも早め、早めとなる。
新型NSX-Rは速い。圧倒的に速い。

もう一点気付いたのは、新型NSX-Rの方が初代に比べて振動が少なく、ノイズが少ないことだ。音と振動も喜びとする人もいるかもしれないが、私には新型NSX-Rの方が好感が持てた。繰り返すが、走行時の静粛性と動力性能の高さはNSXの持つ何ものにも代えがたい価値である。

前述の米ロード&トラック誌によって最近行われたNSXと911カレラの比較テストの結果はとても興味深いものだった。0-100mph加速(0-161km/h加速)はほぼ同タイム、スキッド・パッドでのコーナリングで生じたGレベルも同じ、そして100km/hからのブレーキングでも、まったく同じ制動距離を記録したというのだ。繰り返すが、モデルやタイプにかかわらず、すべてのHonda車は「レーシングカーのエッセンスをどこかに有している」が私の信念だ。そしてその中の頂点が新型NSX-Rである。
 
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NSX Press vol.28 2002年5月発行
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