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Photo 鈴木亜久里 鈴木亜久里
  レーシングチーム監督、元F1ドライバー
  NSXは、僕にとって特別な存在ですね。F1を降りてから、ドライバーとしてチャンピオンシップを闘った最後のマシンであり、2001年は、監督として全日本GT選手権のシリーズチャンピオンを最終戦まで争い、今年は王座獲得をめざすマシンであるからです。
今年のNSX GTマシンは、空力が格段に進化して、さらに速くなっています。フォーミュラカーに近い横Gが出るくらいダウンフォースが効いて、コーナリングスピードがかなり上がりました。空力への取り組みがダイレクトに速さにつながるマシンとなっています。

今回、ツインリンクもてぎで新しいNSX-R、それもほぼ最終スペックのものに乗れる機会があったのですが、驚いたことにフィーリングがNSXのGTマシンとそっくりでとても乗りやすかった。市販のスポーツカーでこんなフィーリングが出るなんて、本当に感動しました。92年のNSX-Rもインパクトありましたけど、21世紀になってNSX-Rはまた、とんでもないことをやったなと実感しましたね。

ものすごく乗りやすいからサーキットで速い。新型NSX-Rは、ひとことで言うと“非常によく仕上げられたレーシングカー”のようなクルマです。
レーシングカーでは、「よく仕上げられたマシン」=「乗りやすい」=「速い」という方程式が成立します。新しいNSX-Rは、その方程式にあてはまるクルマだということです。

乗りやすいということは、自分のマシンと闘う必要がないことを意味します。一般の方にはわかりにくいかも知れませんが、バランスの悪いレーシングカーに乗ると、サーキットや他のドライバーと闘う前に、まず自分のマシンと闘わなければならない。特にF1では、マシンのレベルが高いのでそれが顕著になります。ブレーキを踏むとリアの挙動がナーバスになったり、コーナリング時にアンダーステアが強くて曲がらないといったマシンの持つ素性の悪さと格闘しなければならない。“ねじ伏せる”といったらカッコよく聞こえますが、レーシングドライバーは自分のマシンをねじ伏せるのではなく、競っている相手をねじ伏せなければならないわけです(笑)。
     
    しかし、よく仕上げられたレーシングマシンは、乗りやすくて自分の手足のようになる。そうするとドライバーは自分のマシンと闘わなくて済む。つまり、ドライバーの本来の仕事である相手とのバトルに専念できるわけです。
新型NSX-Rは、高速コーナーでもタイトな低速コーナーでも、アンダーステアやオーバーステアがまったくと言っていいほど顔を出さない。これはすごいことです。こんなスポーツカーに今まで乗ったことないですね。通常、高速に合わせたクルマは低速が苦手だし、低速に合わせると高速でアクセルを踏んでいけなくなることが多い。

なのに新型NSX-Rは、どんなシチュエーションでもステアリングを切ったら切った分だけ曲がってくれるし、立ち上がりでアクセルを踏んでも挙動が乱れることなく、前にクルマが進んで気持ちよく立ち上がってくれるわけです。ほとんどニュートラルステアなんですよ。

これは、ダウンフォースで高速を良くした分、サスペンションセッティングで低速のタイトコーナーを気持ちよく曲がるようにしているからなんですが、そのテイストがすごくいい。よくまとまってるな…って感じますね。高いスピードでもツインリンクもてぎの130Rを安定して曲がっていきますし、続くタイトコーナーでもアンダーステアがまったく出ない。その上、レーシングカーみたいにロール感が少ないのに乗り心地が硬くない。路面のアンジュレーションを吸収して乗りやすいのにも驚きました。

それと、ブレーキがいいですね。よく効くし、周回を重ねてもほとんどフェードしない。ペダルが“スポンジー”になったりせず、安心して踏んでいけます。ABSもよく煮詰められている。専用にセッティングされたということですが、すごくサーキットに合っています。ペダルの感じもよくて、踏力とブレーキの効きが1対1になっている感じです。
     
 
  新しいNSX-Rは、どんなコーナーでも思った通りに走ってくれるから、攻めることが楽しくなる。つい、我を忘れてサーキットの走りに没頭しそうになりますね(笑)。
こういう気持ちになるのは、安心感が高いからです。進入時のブレーキングを含め、コーナリングのあらゆる瞬間で、初代のNSX-Rなら、おそらくリアが出てしまうだろうという走り方をしてもピタッと落ち着いている。

さらに言うと、限界付近のコントロールの幅が広く、タイヤの接地感が常に感じられるし、その変化がリニア。だから安心できて、攻めようという気になる。レーシングカーでも、限界の挙動が唐突に出るクルマでは攻められないんです。いくら限界が高くても活かしきれない。
そういった意味で、今度のNSX-Rは操縦性の質がきわめて高いといえる。だからこのNSX-Rに乗り換えたら、“ドライビングが急に上手くなったんじゃないか”って感じると思いますよ。

初代のNSX-Rとは、まったく別ものですね。「速さと楽しさ」が全然違う。
オーナーの方々が乗ってどんな走りをするか楽しみ。感嘆の声を挙げるのが目に見えるようです。でも、このレーシングカーのようなNSX-Rにも必ず限界があり、それを超えることができないのは他のクルマと同じ。すごくコントロールしやすいけど限界はある。それはお忘れなく。また、このNSX-Rに乗ってタイムアップしても、それはクルマが速くなったからだと思います。ですから、精進は怠らないでください(笑)。

また、何度も「乗りやすい」と言っていますが、いわゆる乗用車的な乗りやすさではなく、サーキットを高い次元で走ったときの「乗りやすさ」です。だから、決してNSX-Rが軟派になったわけではありません。
むしろ、よりレーシングカーに近く、NSX-Rの理想がさらに深化したと言える仕上がりだと思います。
  
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Photo Gallery Taste of New R 復活のニュル CRAFT OF R マイナスリフトの威力 風穴の力学 事の発端 New NSX-R誕生
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NSX Press vol.28 2002年5月発行
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