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「当初、高速コーナーでどんどんクルマが路面に吸い付く方向に進化していくのがわかりましたね。速さもどんどん上がっていくので、鷹栖に慣れたわれわれでも驚くほどでした」 塚本は、マイナスリフトの手ごたえを感じ、それがいい方向に向かって走りはじめたことを安堵した表情で語った。 セッティングにおいては、マイナスリフトにより高速でのスタビリティが向上できたため、従来よりもリアのロール剛性を向上させる方向とした。リアのロール剛性を高めることにより、アンダーステアが減少し、コーナリングスピードを上げられるのだ。つまり、クルマとしての限界アップにつながる。 しかしミッドシップの場合、リアの限界を高めるのは実は難しい。単純にリアを固めて限界を上げようとすると、リアの滑り出しが唐突になってしまうからだ。それを実現できたのは、今回新たに挑んだ「空力操安」のおかげである。クルマを路面に押し付けるだけでなく、コントロールクオリティを高める空力チューニングがあったからこその“リア固め”だ。 そして固めたリアに対し、フロントは相対的に柔軟性を持たせた。これはアンダーステアを弱め、舵の効きを良くし“よく曲がる”セッティングとするため。中・低速コーナーのターンインの気持ちよさと、オン・ザ・レール感を向上させる。 |
全体の限界性能とコントローラビリティの向上は、もちろんタイヤのパフォーマンスアップとともに行う開発である。単純にサスペンションを固めてもそれは乗り心地を悪くするだけ。サスペンションをハードにするということは、それに追随するタイヤの性能が必要となるのだ。その逆も真。それに、マイナスリフトによるコーナリングパワー(コーナリングフォースの立ち上がりの早さ)向上という狙いも、タイヤでフォローできる性能である。 最終的にNSX-Rに投入されたタイヤは、専用開発したブリヂストンのPOTENZA RE070。左右非対称パタンのまるでセミレーシングタイヤのようなアグレッシブな外観である。スリックに近いショルダートレッド、ハイグリップなコンパウンドにより、NSX-Rはかつてない強靱な“踏ん張り”でコーナーを駆け抜ける。 |
「マイナスリフトを取り入れて開発を行ってみると、また一からすべてをセッティングし直すことになりました。当初は初代Rの経験があったので、もっとすんなり行くと思っていたのですが」 塚本は目を細くして笑った。 「逆を返すと、まったく新しいRになった感じですね。初代NSX-Rのように“ガッツ感”がありながら、スタビリティが大きく向上していて安心感もある。スキルの高いドライバーならさらに高い次元の速さを追求できる。サスペンションのセッティング数値自体は、前のRよりハードなんですが意外と乗り心地がいいんですよ。これはダンパーで極低速の減衰力を重視したことが大きいと思います。ダンパー内のピストンを一本一本研摩してバラツキを抑え、狙った数値を出せるようにしました。だから微少な入力をより正確に吸収してくれるのです」 「また、何も変えていないのに、少しエンジン音のガサつきがなくなったねといわれることが多いのです。これは、レースエンジンを上回るくらいの手間ひまをかけ、気持ちよく回るようにエンジンの回転重量バランス取りを行ったもうひとつの成果でしょう」 |
さあ、鷹栖という過酷なテストコースで走りを煮詰めたNSX-Rのテスト車は、通常のフラットなサーキットに持ち込まれた。そのステージは鈴鹿、もてぎ、筑波などである。ここでマイナスリフトを活かしたブランニューRの速さとコントローラビリティを最終的に研ぎ澄ますのだ。 ここで行われた主なセッティングは、スプリングレートを高めサスペンションやブッシュをさらに固め、リアのボディ補強材を強化したことである。つまり、よりハードでシャープな方向に味付けしながら、リアの踏ん張りを高めたのだ。このセッティングにより、塚本のいうNSX-Rとしての“ガッツ感”がさらに高まった。 |
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NSX Press vol.28 2002年5月発行 |