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CRAFT OF R  
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Hondaの情熱ほとばしるRのエンジンファクトリー Photoインパネ
 
 

予想を上回るほどの静かさだった。他のファクトリーにはない雰囲気である。それもそのはずで、NSX-Rのエンジンが組み上げられるホンダエンジニアリング栃木技術センターは、量産システムの研究、技術開発が仕事の中心。注目を集めているロボットASIMOもここでつくられる。それに加え、NSX、S2000、インサイトという限られたクルマのエンジンを組み上げているのだ。1日におよそ70台。その中でNSXは1日1台である。

この台数の少なさからして、NSXのエンジンはすでに“量産”という思考から外れている。「よくもそんな数少ないエンジンの生産を続けているものだ」と誰もが思う。そんな並外れたところがHonda…と言葉で片付けることは簡単だが、ファクトリーに足を踏み入れ現場を目の当たりにすると、何といえばいいのだろうか、まるで世俗を超越したような空気に思わず息を呑んでしまう。ただでさえ手塩にかけてつくられるNSXのエンジンに、NSX-Rではさらに手間をかけている。それはあきれるほどのものであった。

   
 
 
ル・マンや全日本GTといったNSXでの
レース参戦のテクノロジーが、フィードバックされた。
NSXのエンジンは、経験豊かな技術者が基本的にひとりで組み上げる。パーツが居並ぶU字型のコースを、台車を自ら押して移動しながら組み上げていくのだ。ひとりだから、ただ黙々と。静かな作業場に、パーツを取り上げるときの金属音、トルクレンチのカチカチという音が響く。作業に当るのは、桑山光章。当然ながら熟練の技術者。そしてサポート役は掛札雪夫。彼は当初からNSXのエンジンを組み上げてきたベテランである。

「全部をひとりでやっているので責任が明確。だから気合いが入ります。その分、この静かな工場は集中しやすい。大変だけど、やりがいは大きい。子供に何やってるの?と聞かれて、NSXのエンジンをつくっているんだよと言うとき、やはり誇らしいですね」

この神聖ささえ漂うエンジンファクトリーで、NSX-Rのために、さらなる情熱が注ぎ込まれた。ル・マンや全日本GT選手権参戦の、エンジン組み立て技術のフィードバック。ピストン&コンロッドの気筒間相互重量バランス取りと、実測によるメタルクリアランスの管理。そして、レーシングエンジンに匹敵する、フライホイール/クラッチ/プーリーまでを組み込んだクランク系精密バランス取りの工程である。

すでに高精度なNSXのエンジンのその先をめざして。
通常、量産エンジンに組み込まれるピストンやコンロッドも、それ単体での重量管理がなされている。移動のなかで走るよろこびを追求するスポーティーカーの場合、それで十分。剛性の高いブロックや優れた精度を追求して製造されるHondaのエンジンは、高回転まで気持ちよく伸びるエンジンフィールを提供している。

そして、3.2リッターの排気量で8,000rpmのレブリミットを実現するNSXのエンジンも、量産エンジンを上回る精度でコンロッドの重量バランスやクランクシャフトの回転重量バランスがとられている。

しかしNSX-Rは、超越のリアルスポーツカー。サーキットを走るドライバーの繊細なセンサーに語りかける、研ぎ澄まされたテイストを探究するクルマである。Hondaが最適と判断して選択したミドルウエイトスポーツの速さを徹底して追求するためには、性能アップの可能性があれば、どんなに手間をかけてもその実現に挑む。まるで、試合を前にしたボクサーが、ガムを噛んで数グラムの減量を行うような、徹底的な絞り込みに挑むのがNSX-Rというスポーツカーなのだ。
 
Photo
回転してバランスを取っているシーン。通常は安全ネットで覆って回すが、撮影のためにそれを外してある。赤く光るのは、軸まわりの角度を検知するためのレーザー光。
 
       
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Photo Gallery Taste of New R 復活のニュル CRAFT OF R マイナスリフトの威力 風穴の力学 事の発端 New NSX-R誕生
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NSX Press vol.28 2002年5月発行
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