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CRAFT OF R  
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  そうした理由から一体成形しようという案が飛び出したのだ。しかし、実際にリアスポイラーのような大きなパーツを一体成形できる技術を持つカーボン成形メーカーは、自動車関連で見当たらない。
そこで視野を拡げて探したところ、航空宇宙のパーツなどを製作する会社が一社浮かび上がった。そのパーツメーカーと共同開発することで、NSX-Rのカーボンパーツは実現可能となったのだ。
NSX-Rのカーボンフードやスポイラーがどれくらいの時間をかけてつくられるか予想できるだろうか?

答えは、フード・スポイラーともに、カーボンシートの貼り込みをはじめてからひとつが完成するのに3〜4日。想像を絶する時間ではないだろうか。高度な技術と、膨大な時間をかけてNSX-Rのカーボンパーツは丹念に仕上げられるのだ。

膨大な時間をかける、芸術品ともいうべきパーツ。
使用するプリプレグは、カーボン繊維3000本を束ねた繊維で織られた、航空機などで実績のあるもの。45°ずつずらしての積層は、中心となる層の上下で対称になるようにし、反りなどを出にくくする。

ボンネットフードは、外板となる部分とフレームになる部分の上下2つに分けてそれぞれつくり、接着して仕上げている。接着という手法を使うのは、カーボンパーツの中で唯一この部分だけである。接着剤自体はカーボンの接合用として実績のあるものだが、接合の仕方にノウハウがあり、その作業工程はベールにつつまれている。接着剤の厚味を0.5ミリ以下に管理し、優れた接着性を実現。量産部品と同じレベルの耐久テストでも母材を凌ぐ耐久性を示した。

カーボンプリプレグは、1枚約0.2ミリの厚さ。それをボンネットフードで6層、リアスポイラーでは4層積層する。カーボンでつくられた型に、ホコリはもちろん気泡も極力入り込まないように丹念に貼り込んでいく。プリプレグ自体は伸びる素材ではないので、面で分かれる部分はそれぞれ別のプリプレグを張り込むわけだ。貼り込みだけで、最短9〜10時間。貼り込んだら、専用のマットで包み、その上からバギングフィルムで包む。バギングフィルムは、布団圧縮袋のようなもので真空に引き、加熱工程で型内にわずかに含まれる空気を抜く。

そして2〜3気圧に加圧した窯で2〜3時間加熱。加熱温度は130℃ほど。一旦樹脂が液状化し細部まで行きわたったところで温度を下げ硬化させる。加圧するのは、材料の特性を引き出すため。1時間ぐらい時間をかけてゆっくり温度を上げ、気泡をていねいに抜き取り、冷ます時も4〜5時間ぐらいの時間をかけて強固なCFRP(カーボン・ファイバー・レインフォースド・プラスチック)構造体をつくる。固まったら、型から取り出し加工。ボンネットフードは接着し磨き込む。リアスポイラーもまた、特殊な中空技術により一体成形するのだ。具体的な手法は、ベールにつつまれ明かされていない。

確固とした信念に裏打ちされた取り組みにより、NSX-Rのカーボンパーツは、すべての面において金属ボディ同等の耐久性を獲得した。これは、カーボンパーツの一般的な常識を超える品質といっても過言ではない。走りに対して、乗り手を限定するような熱きアプローチを行いながら、品質については使用条件を限定せず優れた耐久性を追求する。ものづくりに対する厳しさが、またHondaらしい。

薄くカーボン目が見えるフードの塗装、ノウハウの塊。
Hondaは、実に品質に厳しい。この厳しさで、過去にいくつもの部品メーカーが苦労を重ね優れた技術を身につけている。振り返ってみれば、NSXのアルミボディに使われる外板材も、それまで自動車部品として流通していたものでは、塗装面の美しさに満足できずNSX開発スタッフはNGを出した。それにより、かつてない優れた性能の外板素材をアルミメーカーは生み出したのだ。

カーボンパーツの場合、ほとんどのメーカーが塗装のクオリティにこだわったという前例はなく、NSX-Rの開発スタッフは独自にその技術を開発しなければならなかった。カーボンパーツに塗装を施す場合、金属塗装と同じ外観および耐久性を考えるなら、丁寧な下地処理を行いできるだけ厚味のある塗装を行う必要がある。しかしそうすると、カーボンであることが判別できなくなる。カーボンらしさを出すには、クリア塗装でいいじゃないかと思われるだろう。しかし、いかなるクリア塗装でも、Hondaの求めるボディ同等の耐久性にははるかに及ばないのである。

そこで下地材を徹底的に工夫。ボディを上回る、5コート5ベイクの塗装を行いながら、ボンネットフードではうっすらとカーボン目が見える耐久塗装を実現したのだ。5コートとは、下地のバリアコートが2層、中塗りが2層、水性塗装/クリアの計5層。5ベイクとは、その工程で5回の焼付けを行うことである。リアスポイラーは、ブラックを選定した。

以上のように、NSX-Rはただのカーボンパーツを付けただけではない。性能が第一のこだわりであるが、これほどのこだわりが、たった2つのパーツに込められているのである。
 
カーボンの層
右の黒い部分がカーボンプリプレグの層。左の黄色が混じった部分が、カーボン/アラミドプリプレグ。ボンネットフードの一部分である。カーボンの層に対して、45°の角度をつけて張り込まれているのがわかる。このていねいな張り込みが、金属ボディ同等の優れた強度実現の源となっている。
 
カーボンプリプレグ
万一の衝突時の“ちぎれ”にくさから、アラミドを採用したボンネットフードに対し、リアスポイラーはカーボンプリプレグのみで強度と軽さを追求。写真は型に張り込まれた4層のカーボンプリプレグ。1層の厚さは約0.2mm。この折り返し部分を“のり代”として上下の型を合わせて一体成形されるのだ。
 
オートクレーブという窯
緑色の機械が加圧・加熱を行うオートクレーブという窯。その中に丹念にラッピングされて、真空に引かれたNSX-Rのカーボンパーツが入れられる。過熱して冷めるまで、およそ6時間。量産スポーツカーで、パーツづくりにこれほど贅沢な時間をかけるものは、他に例がないかも知れない。
 
       
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NSX Press vol.28 2002年5月発行
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