NSXを愛し続ける仲間たち
花木 NSXがあることで、自分を向上させていけるんですよね。多くのオーナーにとってNSXとは、そういう人生の根幹にも触れる大切な存在だということをこの場で声を大にして言っておきたいですね。
岡田 NSXが出るまでは、営業に行くとき会社のジャンバーを着て行かないとクルマ屋だと認めてもらえなかったのですが、私としてはNSXによって背広で営業できるようになったことが大きかったですね。それだけ、営業所の社会的な認知を高めてくれたクルマだといえます。また、開発者の顔が見えたのも初めてでして、フラッグシップとしてHondaのイメージを強く高めたクルマだと思います。
市川 NSXに乗るまでスポーツドライビングを知らず、こんなに楽しい世界があったのかいう気持ちでいっぱいです。いまではレースとレースの間にどのように仕事をこなそうかと、そういう人生になりました。文字どおり僕の人生を変えましたねNSXは。
上原 研究所というのは、お客様とは意外と縁遠い職場なのですが、NSXをやるようになってからお客様と直接接することが多くなったというのが大きな変化です。これにより、いろいろなメリットがありましたね。それとつくり手としてうれしいのは、7千台NSXを販売したなかで、いまだに6千5百台も残存して活動していることですね。スポーツカーというと、性能がいいのははじめの2〜3年であとはガクッと落ちるなんていうのが常識だったりするわけですが、そういう常識も覆したかなと思います。 私も初期のクーペに乗っていますが、まだまだいい感じですね。エンジンなどどんどん軽く回るようになって快調です。また、アルミは錆に強いのでよく30年は持つなんて言ってましたが、実際それぐらいはいけるんじゃないかと思います。そうしたときリフレッシュは非常にありがたい存在だと思います。
山根 今では子供が親父のものを受け継ぐなんていうことは少ないと思いますが、NSXならそれができるんじゃないですかね。家宝のように息子へ譲るわけです。「大事にしろよ…」と言って。
計り知れない価値を生むNSXをぜひ存続させ続けて欲しいですね
市川 NSXというクルマは、単体の利益だけで考えちゃいけないと思うんですよね。
黒澤 それはみんなHondaの人もわかっていますから安心してください。
市川 いや、それをオーナーやHondaファンも感じていることが大きいんですよ。
山根 やはりNSX乗ってるから、僕は乗用車もレジェンドにしているわけです。NSXが儲からないといいますが、こういうレジェンドの利益もNSXに加算して考えるべきじゃないかと思いますね。そういうNSXオーナーは多いです。みなさんだいたい日常車はホンダにしていますから。
上原 いやあ、心強いご意見ですね。
たとえNSXしか持ってなくても、オーナーの多くが個人事業主ですから。その人の周囲にはたくさんの人がいるわけで、NSXに乗ると注目度も高く影響力も高い。NSXが商売にならなくてもHondaのいいイメージを強力にオピニオンしていると聞いてますね。
稲田 NSXを単体のビジネスとして考えたら、10年も存続できなかったでしょう。でも、お客様の熱い声がありましたから、続けられているわけです。川本相談役がこの前のfiestaに久しぶり来たときに、これだけNSXとオーナーの輪が育ったのかと驚いていました。「NSXをつくることを決めてよかった、本当によかった」と何度も言っていましたね。こういう感動がNSXというスポーツカーのまわりにはいっぱいあるわけです。
山根 NSXオーナーズ・ミーティングに参加したあるとき、交通教育センターの前の所長の福島さんに鈴鹿のホンダにおけるミッションは何ですか?と聞いたら、「さりげなくホンダファンをつくることです」とさらりと答えていました。何かいいなあと思いましたね。 彼は宗一郎さんなんかと直接話した方で、「いいクルマだけじゃなくってな、いいドライバーになっていただくサポートすることが大事なんだよ」ってよく言われたそうです。
黒澤 NSXオーナーズ・ミーティングも鈴鹿があればこそです。そういう意味では根っこはやはり本田宗一郎さんです。F1をやるためではなく、自分でつくったオートバイを走らせるために62年に7億円もかけて鈴鹿をつくったんですから。今にすれば700億円以上でしょう。名神高速道路もない時代にものすごい投資です。21世紀になって、これからサーキットを持とうとする所と比べると一世紀も時代を先取りしたといえる(笑)。その創業者のハートを受け継ぐのがNSXというスポーツカーの使命のような気もしますね。
山根 私は中村良夫さんにお会いしたことありますが、宗一郎さんのことを火の玉みたいな男ですといっていましたね。
上原 NSXの発売も喜んでくれました。
稲田 私の本田宗一郎に対する強烈な記憶は、営業所に来て、どんなに油手の人にも握手していたことです。クルマの下にもぐっていても、「オイ」と声をかけて手をのばして握手する。背広が油でよごれるんですけど全然気にしないわけです。そのときの口癖が、「研究所がいいものつくらないから頑張ってください」でしたね。お客様に近いスタッフには優しかった。
黒澤 引退したときに、ヘリで全国のHondaのSFを回ったときですね。小さなSFばかりだったけど、その中庭にヘリで降りちゃうんですよ。申請すると大変だから、緊急着陸ということで。それであとで始末書書いて…。
山根 とにかくNSXは夢を与えてくれるクルマですよね。おそらくは採算取れないと思われるなかであえてつくるHondaの思い切りを感じますし、日本にはNSXがあるという誇りを与えてくれます。操れば性能が奥深くて、ドライビングに関しては壮大な冒険が待ち受けていますし、オーナーになればいろいろな方と知り合えます。花木さんのように、スポーツカーと縁のなかった方にも、自分にも乗れるのではという希望を与えてくれる。こんな素晴しいスポーツカーないですよね。その夢の力を僕らは吸収しているんだなと思います。ぜひ、Hondaさんにはこの夢を途絶えさせないで欲しいなと思いますね。
岡田 私などは、NSXはこのままでいいからこれから10年でもつくり続けて欲しいですね。新しいものがあるとすれば、それはそれでまた別な世界を築いて欲しいと勝手に考えたりします。そうすると、NSXの素晴しい歴史がそのまま動態保存されるようでうれしいですね。
市川 私は、たとえNSXが進化するとしても、現在の胸のすくような、楽しくてしょうがないコントロール性は守ってもらいたいですね。レスポンスが上がったとしてもレーシングカーのようになって欲しくないですね。純粋にスポーツカーとして走ることを楽しみたいですから。
美濃 10年前に世の中をアッと言わせたNSXですから、21世紀のはじめにまた世の中を驚かせる何かがあってもいいですよね。
上原 新しいことにチャレンジするための“N”ですから、よくお伺いする単なる馬力アップやパフォーマンスアップではNSXの進化は済まされないわけです。ただ、離れたくないのは、“人”が乗るということ。その“人”とクルマの関係性にNSXは新境地を見い出したわけですから、それは大切にしたいですね。 “10年ひとくぎり”といい続けてそれが過ぎました。今度は次の10年です。それが必ず続くとは言い切れません。でも、この10年もそういう空気のなかでやってきたわけです。世の中あまり確実でぬるま湯に浸ってしまうといいことありませんから、いつ終わるか知れないという刺激のなかで果敢なチャレンジを続けたいと思っています。それが、NSXの“X”です。未知への探究です。苦しいですが、もっとも情熱を掻き立てられる研究です。どうぞ、NSXのこれからにご期待ください。
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NSX Press vol.26 2001年3月発行