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言うまでもなくミッドシップ・レイアウトはレーシングカーの基本でもあり、重量バランスに優れ機敏な操縦性を実現するために有利だ。だが全日本GT選手権の場合、話はそれでは終わらない。実はGT選手権のエンジン規定では、同一メーカー製ならば量産形式にこだわらずエンジンの積み替えが可能と定められており、場合によっては市販モデルには存在しないターボ過給エンジンを搭載することも可能なのだ。

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TAKATA DOME NSX Juichi Wakisaka / Katsutomo Kaneishi

ターボ過給と自然吸気を比べた場合、車両規定で吸気制限が行われるため最大出力では大きな差が生じないが、中間のトルクではターボ過給エンジンが決定的に有利になる。先行するライバルメーカーは、FRレイアウトにターボ過給エンジンを組み込んでいた。NSX開発陣も、当初はライバルに対抗するためには、NSXにもターボ過給エンジンが必要なのではないか、と考えたという。
しかし結局NSXは量産モデルと同じ自然吸気エンジンを積むことになった。ホンダはGT選手権の理念が「量産車ベースの車両によるレース」という点にあると考え、量産モデルの素性を極力GT車両にも引き継ごうと考えたのである。エンジン開発を担当した無限の永長真氏はこう言う。
「全日本GT選手権の理念を考えたとき、GT車両は市販車の延長線上に開発されたクルマであるはずです。私たちの仕事は、市販されているクルマに手を入れたらここまで性能が引き出せる、ということを示すこと。そのためにはベース車両のエンジンをそのまま使って闘うべきだと考えたのです」
GTレースの理念を守り採用した自然吸気エンジンには中間トルクが相対的に不足するというハンディを強いられた。開発陣はそのハンディを、NSXが本来持っている軽快な操縦性と優れた空力性能をより磨き上げることで補おうと考えた。そのうえで自然吸気エンジンが持つ利点、すなわちスロットルを開ければ開けただけパワーが出るニュートラルな特性によって、NSXのフットワークをさらに活かした。こうして他メーカーとは異なるコンセプトの上にNSXはGT競技車両として生まれ変わったのである。

それから3シーズン。ホンダはいよいよ全日本GT選手権制覇に向けて戦闘態勢を強化した。まず供給先を1チーム増やして5チームへと戦線を拡大。中子修/道上龍組、脇阪寿一/金石勝智組、飯田章/服部尚貴組、伊藤大輔/ドミニク・シュワガー組、鈴木亜久里/土屋圭市組という顔ぶれは、ベテランから新鋭まで国内有力選手を揃えた強力な布陣である。
 そしてそこへ、1997年以来初めて全面的に開発し直したNSX2000年モデルが投入された。
従来のNSXも2シーズン以上にわたる熟成の結果、チャンピオン争いを展開するまでに進化を果たした。しかしその間に開発陣は、NSXにはまだ開発の余地があり、より高次元の戦闘力を引き出せることに気づいていた。そのためには、根本的な開発のやり直しが必要だった。こうしてベース車両としてのNSXの素性の良さは、現状に甘んじることなく敢えて困難な課題を自らに課して常に挑戦を続けるホンダ・スピリットによって再評価され、2000年モデルという形になって結実したのだった。
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NSX Press vol.25 2000年9月発行