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「最も重い重量ハンディを課せられた時、最も良好なバランスを示すクルマ」これが、全日本GT選手権用にホンダが投入したNSX2000年モデルの開発コンセプトであった。
全日本GT選手権では、レースで好成績を納めた車両にはその順位に応じて次のレースからウェイトハンディが課せられる。これは、同じクルマが勝ち続けることを抑制するための措置である。1位50kg、2位30kg、3位20kg。決勝最大累積120kgというハンディは、車両規定で定められた最低重量ギリギリまで軽量化された競技車両にとっては厳しい重荷だ。
だがNSXの2000年モデルは、この最大累積ハンディ120kgを課せられたときに最も理想的なバランスになることを目標に開発されたという。これは何を意味するか。
言うまでもなく、ウェイトハンディに最大累積重量が定められているのは、これ以上バラストを搭載してはハンディを通り越して車両本来のバランスを破壊して危険だからだ。それ以前に、徐々に増していくハンディを乗り越えて最大累積ハンディまでたどりつくほどのクルマは現れまい、万が一そこへたどりついたとしてもさすがに120kgバラストを積めば、それ以上の好成績は残せないだろう、という見込みがある。
ところが、ホンダはこの最大累積ハンディを当初から想定した。つまりホンダはNSXの2000年モデルを、単にレースに勝つことだけを目標に開発したのではない。ウェイトハンディが最大になるまでレースに勝ち続け、しかもそこに及んでなお勝とうと考えたのである。もちろん、それはきわめて困難な課題であった。
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Castrol MUGEN NSX Osamu Nakako / Ryo Michigami |
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NSXのGT車両開発陣が敢えて困難な課題を定めそれに挑戦したのは、これが初めてのことではない。ホンダがNSXタイプSをベースに全日本GT選手権向けのレース車両を開発、実戦を開始したのは1997年半ばのことだが、このときにも開発陣はひとつのこだわりを見せているのだ。
全日本GT選手権は、一般向けに量産されている乗用車に改良を加えた車両で闘われるレースである。その改良の範囲は車両規則によって他のカテゴリーに比して非常に広範囲、細部にわたって幅を持たせた形で定められている。
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ARTA NSX Aguri Suzuki / Keiichi Tsuchiya |
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なにしろ乗用車はユーザーの趣味趣向用途に合わせて開発販売されるものであり、姿形はもちろん競争に大きな影響を及ぼす動力性能までもが様々で、そのままでは競争が成立しない。もともと素性の大きく異なる自動車を同じ土俵の上で闘わせるためには、不公平が生じないよう、それぞれのベース車両の事情を勘案した特別な配慮が必要なのだ。
ベース車両の素性の違いは、その基本レイアウトによく現れている。現在全日本GT選手権で総合優勝争いを展開している国内3大メーカーのうち、運転者の背後にエンジンを搭載し後輪を駆動するミッドシップ・レイアウトを採るのはNSXのみ。残る2メーカーは、フロントにエンジンを積み後輪を駆動する、いわゆるFRレイアウトを持つ量産スポーツカーをGTのベース車両に選んでいる。 |
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