ローバーBRMガスタービン・プロトタイプカー
まぎれもなくスポーツカーのスタイルを持つローバーBRMガスタービン・プロトタイプカー。ル・マン史上の新たな1ページを拓いたマシン、ドライバー、そしてメカニックまでもがゴール後に盛大な拍手と歓声で迎えられ、まるで優勝したかのようだったという。

ル・マンを音もなく駆け抜けたガスタービンエンジン搭載のスポーツカー。

ガスタービンエンジン車と聞くと、乗用車を改造した、無骨なクルマを想像されるだろうか。
しかし今から30年以上前に、初めて世界の注目を集めたガスタービン車は、何と2座オープンスポーツカーなのである。
それも1963年にル・マンに出場して堂々8番目にゴールする。 この劇的なマシンを制作したのは、1950年に世界初のガスタービン車を開発した英国ローバー社。
航空機がレシプロエンジンからタービンエンジンに劇的な転換を遂げるとともに、自動車エンジンのタービン化に先行していたローバー社は、F1マシンの設計で知られるオーウェン社(BRM)に協力を要請しローバーBRMガスタービン・プロトタイプカーをつくり上げた。
ガスタービンエンジンが面白いのは、回転数とトルクが反比例することである。
このローバーの最高回転数は40,000回転でそのときのトルクが5.5kgm、ル・マンの名コーナーミュルサンヌでは、8,260回転まで下がり逆にトルクは41.1kgmまで上がるという。
往復運動部がなく振動・騒音を最小限に抑えられるため、走行音はきわめて静か。ところが、エンジンブレーキはまったく効かないため、ブレーキにとっては過酷である。
ローバーBRMはプロトタイプであったことから、ゼッケン00番、賞典外でのル・マン参加となった。したがってドライバーがマシンに駆け寄る名物のル・マン式スタートで全車が走り去ったあと、30秒遅れでコース上からスタートした。金属音を響かせ、静かに滑るように近付いては走り去るローバーBRMはじきに観客からサイレントゴーストと呼ばれるようになる。
驚異的なスピードにものをいわせ、オープニングラップで10台、次の周で17台を抜き去ったという。
その後も快調に走り続け、結局このレースの1位から6位までを独占したフェラーリに迫る8位でチェッカー。
走行距離4132.736km、平均速度172.544km/hを記録。平均速度150km/h以上を記録したガスタービン車に2万5千フランの賞金を出していた当時のル・マンの粋なはからいの恩恵に浴した。
ちなみにステアリングを握ったのは、かの有名なグラハム・ヒルと、のちにホンダF1にも乗るリッチー・ギンサーである。ローバーは翌々年の65年にも、さらに洗練したクーペスタイルのガスタービン車でル・マンに正式参加。タービンに傷を負いながらも、同じくヒルとジャッキー・スチュワートのドライブで総合10位につけた。
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NSX Press vol.24 1999年10月発行