さわやかな風が吹き抜け、緑の木々が揺れる。
気圧の差異によって加速された空気は、木の幹や葉の存在など眼中にないかのように体当たりを食らわせ流れ去っていく。葉は、風に押し曲げられ、あるいは表裏の風の通加速度の違いによって生まれる揚力の変動で激しく波打つ。その葉を支えるのは、いかにも華奢な軸である。しかし、どんなに強い風が吹いても、簡単にちぎれてしまうことはない。
木や花の葉を、そんな疑問を抱きながらじっくりとご覧になったことがあるだろうか。よくよく観察すると、葉を支える細い軸は、力学的に見て理想的なカタチを成しているらしい。軸の両端の、葉や枝に続く部分のカーブは、応力を集中させにくい複雑なRを描いているというのだ。この、恐るべき自然の合理性を、NSXのアルミ鍛造サスペンションアームは採り入れていた。
「何となく無機質なカタチに見えないでしょう」と、NSXのシャシー開発に古くから関わっていたホンダ技術研究所の瀧敬之介はいった。
なるほど、あらためてNSXのサスペンションアームを眺めてみると、まるで俊足な動物の骨のようである。単にアルミ鍛造化、つまりは材料置換によって従来のアームを軽くしただけではなかった。NSXのサスペンションアームは、自然界にまで思いをめぐらしながら構造を突き詰めた、芸術の粋にまで達するものだったのだ。
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