シビックを2台、CR-X、プレリュード。すべてマニュアルトランスミッション仕様。そして、いまのNSX-R…。ホンダの和光研究所に勤める高橋正年チーフエンジニアのこれまでの歴代の所有車である。
こう並べると、相当な走り屋と思われるかも知れないが、そうではない。MTを選択するのは、運転には緊張が必要であり、自分の判断と操作によって責任を持って行いたいというこだわりから。MT一筋でありながら、サーキットに出かけたり、休日ワインディングに足を伸すことは一切なし。もっぱら毎日の通勤と、休日の買い物、趣味である研究所の野球チームの試合に出かけたり、年に何回かの小旅行の足としてクルマを使う。
そのためにNSX-Rとは…と、思われるかも知れない。しかし、それは思い違いである。いや、毎日の足だからこそNSX-Rがいいのだ。 彼によるとハードサスの乗り心地は、普通の道ではまったく問題ないというか、レカロとの組み合わせでむしろ心地よいほど。しかし、パワステのないNSX-Rでの長時間ドライブは結構こたえるという。
だから高橋さんは、1時間ぐらいの道のりで、NSX-Rのきびきびとした「走る・曲がる・止まる」性能を楽しむ。それも、スピードを出さずにリラックスして走ることがベストという持論の持ち主なのである。
高橋さんのNSX-Rは、生産終了を翌年に控えた'94年に購入した1年ものの中古車。ほとんど新車に近い状態のものを、友人の教えてくれたお店で手に入れた。ホンダの技術の粋を集めたリアルスポーツを、より身近な価格で手に入れるなら中古車がいいというご意見。プロトタイプから生産立ち上げまでとタイプS開発のときNSXの開発に関わってきた高橋さんは、NSXのつくりの良さ、ロングライフ性を知り尽くしている。
購入時の走行距離は約1万キロで現在約4万2千キロ。当然のことながら何のトラブルもなく、およそ7千キロごとのタイヤ交換のほかはメンテナンスフリーで走りを楽しまれている。
仕事を終え、自宅までの約30分間、ホンダ最高のドライビングプレジャーを毎日楽しむ…。実に気持ちよさそうなNSX LIFEである。

「クラッチは軽くて疲れないし、レカロシートのホールド感を味わったら病みつきになるというけど、嘘じゃない」と語る高橋さん。スピードは出さなくても、パッと加速し、キュッと曲がり、ピタッと止まる。その小気味よい流れを、走りながら自分で組み立てるのが楽しい。そして、30分という時間がちょうどいい。まだ乗り続けるが、いつかはタイプSにも乗りたいとのこと。
デザインをデータ化する高橋さんは、データの量の多さでNSXのきめ細かなつくりを知り尽くしている。通常のスチールボディなら左右いずれか片側の情報から反対側を類推する部分が多いが、NSXではそういう部分はゼロ。板厚の分布など実にきめが細かいためあらゆる部分すべてをデータ化しなければならなかったという。彼のNSX-Rは、5年めを迎えた現在、エンジンも足まわりも実に調子いい。ディーラーものならいい中古車が出回っており、必ず試乗させてくれるお店でクルマを選ぶべきとのアドバイスがあった。


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NSX Press vol.22は1998年8月発行です。