色とりどりのマシンがアクセルをフラットアウトするホームストレートからコンクリートウォールを隔てたこちら側が、多忙を極める彼らの闘いの場である。テストをこなし、ベースファクトリーで仕上げたマシンを持ち込むのがレースウィークの木曜日。微に入り細にわたるチェックを行いながら翌日のフリー走行に備えてマシンを組み上げる。
金曜日はフリー走行、土曜日は予選が同じく午前と午後に1時間ずつ行われ、決勝を行う日曜日は、朝8時30分からのフリー走行のあと午後にレース。この間、ブレーキやクラッチオイル系のエア抜き、サスペンションアライメントのチェックから、ボディを彩るカッティングシートの切り貼りまでありとあらゆることを行う。ドライバーのフィーリングによっては、エンジンの積み降ろし、ギアボックスやクラッチのオーバーホール、ダンパーの交換、痛んだボディの修正など重整備を行わなければならない。
NSX GTマシンのシャシー製作を手掛ける一方でチームとしてレースにも参加している童夢(小誌vol.20でも紹介)では、メカニック6人、エンジニア2人、テクニカルディレクター1人の計9人がチームの走らせるマシンのセットアップに関わる。
納得のいく仕上がりにならなければ、決勝レースのスタートまで彼らの作業は途切れることなく続く。彼らが異口同音に口にするのは、勝利の感動は、苦労のすべてを忘れさせてくれるほど大きいということ。それが、唯一無二のモチベーション源であるという。
そして、他の国産コンペティターのなかで唯一のリアルスポーツカーであると自負するNSXを手掛けるプライドが、彼らの胸に漲っていた。

田中 弘テクニカルディレクター。中嶋悟、片山右京などのF1ドライバーを輩出したヒーローズレーシングの代表であるが、今シーズンは、童夢に請われてメカニカル面の総指揮を執る。多くの人間、キカイ、天候が関わり、メカニズムと自然との調和の闘いであるレースをコントロールするこの仕事に夢中。ドライビングに対して絶対の自信あり。走りのわかる理論派ディレクターである。ノートラブルなら絶対に他に負ける気はしないと息巻く。
設計担当の中村卓哉チーフ。NSXのボディの隅々まで素性の良さを知り尽くしている人物。レースに携わるのは、設計したものが目の前ですぐに動き出し、結果が得られる楽しさと勝つ歓び。何よりもかっこいいマシンであることが、NSXに関わる歓びとのこと。決して開発の手を緩めない。得意技は、あきらめを知らない情熱。 チームマネージャーの手代麻紀子さん。スケジュールの管理、飲み物やお弁当の手配から、個性の強い首脳陣のよき潤滑油役まで、仕事の幅の広さはチーム随一。元レースクイーンの美しきスマイルと持ち前の明るさで張りつめた空気を和らげる彼女の存在は大きい。得意技は、百万ドルの笑顔ならぬ、お弁当60個イッキ持ちのパワーとか。以前はレース無関心派だったが、ある日、友人に連れて行かれた草レースのピットで見たドラマに感動し、レースのとりこになった。
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NSX Press vol.22は1998年8月発行です。