鈴鹿サーキットにあるオフィシャルカーのなかで、最も高いスピードで走るのがご覧のNSX-R、レスキューカーである。同じくドクターカー(シビック)も現場に急行するために全開走行を行う。ちなみにレースで最も目立つ、先頭集団を引っ張るペースカー(プレリュード、インテグラ)は、ほとんど高速走行することはないという。
レスキューカーが速く走る必要があるのは、サーキットで緊急事態が発生した場合、1秒でも早く現場に駆けつけなければならないからだ。さらに、各カテゴリーの予選やレースのインターバルの間に必ず1周は全開で走り、高速走行に耐えられる路面状況であるか確認する仕事もあるためだ。
かつて、CR-XやシビックSiRのレスキューカーはチューニングモデルを使用していたとのことだが、NSX-Rは元々のポテンシャルが高いため、走りに関してはまったく手を加えられていない。それでも、チーフとしてこのNSX-Rのステアリングを握り3年になる中野直樹さんは、正確に計ったことはないながらも、鈴鹿のフルコースを2分40秒以内で走る自信があるという。彼は、免許を取って以来シビックに乗り続けるホンダファン、10代は地元 和歌山の峠を攻めた走り好き、鈴鹿サーキットで働きながら一時レーサーの道も考えた。しかし、レスキューの仕事を目の当たりして憧れ、依願転属。厳格なレスキュートレーニングと、1年半助手席で走りを見習い、現在に至る。日々、NSXの素晴らしさをサーキットで味わえる幸せ者である。
待機と全開を繰り返し、5レースでタイヤを使い切るほど苛酷な走行を行っても、全くノートラブルというNSXの信頼性にも驚嘆していた。


中央に見える3つが、フロント・ルーフ・リアのフラッシュライトのスイッチ。その他、無線機、拡声器、サイレン、大型の消火器、牽引ロープを装備している。安全のためにロールケージと4点式のシートベルトをつけ、エアコンはなし。3レイヤーのレーシングスーツと、グローブ、ヘルメットをつけてステアリングを握る。競技車やコースマーシャルの存在をケアしながらの全開走行を行い1秒を争うシーンでも、絶対にスピンは許されない。
人命救助、安全を確保しながらの全開走行のプレッシャーから、レース直前はピリピリと神経を尖らせるという。それを充分に理解している奥様が、和らいだ雰囲気をつくる…。
レースを前にしてメンタルな闘いを強いられるのは、チーム関係者だけではないのだ。せっかくレーシングカーに近いNSXに乗れるのだから、もっと速くなりたいとにこやかに語る中野さん。NSXオーナーの皆様へ、上手くなる第一の秘訣は、ギアの選択よりライン取りとのこと。特に、1-2、デグナー、スプーンの複合コーナー。そして、S字のリズム。


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NSX Press vol.22は1998年8月発行です。