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体側・脚側を手厚くサポートすることから、レカロはスポーツシートであるというイメージを持たれる方も多い。確かにサイドサポートのデザインは、シートがまだ平らだった時代にコーナリングGを受けとめる画期的なデザインとして生まれた。'65年のフランクフルトモーターショーに、レカロの若いデザイナーの作品として出展されたのである。そのシートが人気を博すなかで、さらに科学的な要素を加える研究に着手した。
レカロが腰痛に着目したのは、'70年代にドイツで腰痛が現代病として大きな社会問題となり、運転に携わる多くの人が腰痛に悩んでいたという事実があったからだ。
シートを工夫することで、何とか腰痛問題の解決に貢献できないか…との情熱を抱き続け、整形医学医をシート開発に加えて研究を行ったのだ。 研究により、ただ座って運転しているだけの状態が、非常に腰痛に大きな影響を及ぼしていることがわかった。運転しているとき、ドライバーは楽な姿勢をとろうとして、お尻を前に出したり体を斜めにしたりする。そうすると楽なようでも、背骨に最も負担のかからないS字わん曲の状態でなくなり、腰にとって非常につらい状態となってしまうのである。
現在のドイツでは腰痛とシートの関係は広く理解されているが、当時はまったく知られていなかった。レカロシートの輸入と組み立てを手がけるカイパーレカロ・ジャパンの佐藤英哉氏は、日本は今でも当時のドイツの状況であるという。レカロシートの効用を説明すると、「クルマの部品屋が医者みたいなことを言うな」といわれたらしい。その佐藤氏が、背骨には思わぬ荷重が掛かっていることを医学監修された社内パンフレットを取り出し次のように説明してくれた。
たとえば体重が約70kgの人が正しい姿勢で直立すると、背骨の腰の部分(腰椎)にかかる荷重はは約100kgにもおよぶとされている。上半身の体の重さより重いのは、筋肉が背骨をまっすぐに保つために引っ張っているからだ。ところが、前にかがむなどして背骨を曲げた場合、30度の前屈で、荷重は約150kgに上昇するという。そうした状態、つまり背骨のS字をくずした姿勢で運転して振動を受けると、腰椎は数百キロのハンマーで衝撃を受け続けるのと同じことになるのだそうだ。
悪い姿勢での運転は、腰に強い負担を否応なしにかけ続けていることを意味するのだ。それだけではない。背骨が曲がっているとその周囲の筋肉が緊張する。したがって筋肉の疲労も大きくなり、痛みを生じやすくなるのだ。痛みを感じると、自然と運転への集中力も低下してしまうことになる。 そう、レカロシートのサポートは、不自然な姿勢を取りにくくし、背骨の自然なS字を保ちやすくするためのものなのだ。パッドの程良い硬さも、沈み込みによって背骨のS字がくずれることを防いでいる。筋肉の緊張からドライバーを解放し、より快適にドライビングが楽しめることをめざすシート。それがレカロなのである。



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NSX Press vol.21は1998年3月発行です。