そしてスチール製のロールケージをアルミモノコックと接合させる際も、童夢ならではのアイデアが生きた。スチールモノコックを持つ他のマシンは、単純にロールケージを溶接すればいいが、NSXの場合アルミのため溶接ができない。そこで、アルミボディと円筒状のロールケージの接点をカーボンで覆い込んで固めるという世界初のハイブリッドな接合手法を開発したのだ。熱膨張率が高いアルミと、まったく膨張しないカーボンを接合する特殊な手法。剛性アップにもつながる見事なやり方でスチールのロールケージをアルミボディと一体化することができた。
こうして、NSXのシャシーはF1に匹敵するこだわりでつくり上げられていった。カーボンコンポジットはすべて童夢内製。美しいまでの仕上がりである。剛性も高い。ねじり剛性は、計測によるとF1モノコックのおよそ5倍にもなるのだ。
当然車重をはじめ、F1とは根本的に構造が違うため比較にはならないが…。NSXのホワイトボディが超軽量の170kg。それから、不要なパーツを取り除いた時点で約150kg。ロールケージを加えて約260kg。そして補強を施したボディ総重量が約310kgとなった。つまり、たった50kgの補強で驚くべき剛性を獲得したことになる。
「NSXはオールアルミという独創的なボディを持っていて、重量が元々非常に軽い。その分剛性アップのためにさまざまな補強を施すことができましたね。我々も最良の設計を施しましたから、あまりに重量が軽くなり過ぎました。それでわざわざ120kgぐらいのバラストを積んでいます。これがなければもっと速くできるんですけどね。F1感覚からすると非常に不思議な感じです」
―――ボディ剛性の点では、NSXのアルミボディのメリットが生きたが、サスペンションレイアウトでは、NSXの突き詰めた設計が裏目に出ることになった。
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コクピットに張り巡らされるロールケージ。この材質がスチールと決められているため、アルミボディと溶接できない。それで、カーボンコンポジットで包み込む世界初のハイブリット接合が考案された。

ヒューランド製の6速シーケンシャル。4月のシェイクダウンを前に到着が遅れ、やっと着いたもののシャフト径が合わず、特殊な加工ができるファクトリーを日本中探し回ることに。しかしちょうど花見日和の休日。まさにしらみつぶしに職人を探し、やっと間に合わせたという。

ブレーキローターの奥にある、ボディに溶接された台形状の構造物がサスペンションブラケット。これが、無垢の特殊アルミインゴットから削り出しでつくられたのだ。とにかく性能を突き詰めた童夢の熱きスピリットを語る逸品である。
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