

ご承知の通り、排気量拡大のためにボアアップの手法を採用したのは、高域の回転を落とさないためである。もしストロークを伸ばし、従来の最高回転でエンジンを回したとすると、必然的にピストンスピードが上がってしまう。もともとNSXは、量産エンジンとしてピストンスピードの限界に挑んでいるためこれは許されない。したがってストロークアップではレブリミットを下げなければならない。その点ボアアップなら、ピストンスピードを増やさずに排気量を上げられるため、従来の最高回転を維持できる。パワーアップチューンがボアアップの手法を選択するのは、こうした理由とブロックの長さを変えずにシリンダー径を広げればいいという容易さからである。しかし、NSXの場合、生まれつきコンパクトなエンジン設計のため、単純にシリンダー径を広げるというわけにはいかない。従来のままでは、シリンダー間の壁をそれ以上薄くできないのだ。
そこでシリンダー内壁を、鋳鉄ライナーを含む二重構造から、ライナーを兼ねる繊維強化アルミ合金(FRM)を使用した一重構造にする手法が取られた。これによりシリンダー間壁が薄くでき、1気筒当たりのシリンダー直径を90mmから93mmへと拡大。エンジンサイズをキープしたまま、3.2リットルへの排気量アップを可能としたばかりでなく、ブロック単体で3kgの軽量化まで成し遂げたのだ。
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