
NSX専用のアルミ鍛造ホイール開発の話に移る前に、その工程を簡単にご紹介しよう。
まず、ホイールの直径の半分ほどの円筒形のアルミのかたまり(ビレットと呼ばれる)を、多少軟らかくなる温度に加熱し、これを数千トンもの強力なプレスで一気に押し潰す(1次鍛造)。この最初の行程でアルミのビレットは所定のホイールのサイズに“成長”する訳だが、実はこのとき、ホイールの中心から外周に向かって“メタルフロー(鍛流線)”が発生する。切断面を見ると目視できるこの鍛流線とは、鋼鉄を鍛えて造られる日本刀にも認められる、一方向に流れる何条もの筋のようなものである。強大な力によって金属が鍛えられることで発生するこの結晶粒の理想的な配置が、鍛造ホイールの強度を格段に高めてくれるのである。鍛流線の有無こそが、鍛造と鋳造の決定的な差異と考えていいだろう。

|

|
円筒形のアルミのビレット。これが鍛え上げられて鍛造ホイールになるのだ。仕上がるまでに、何千トンもの力がこのアルミの塊に注ぎ込まれる。その力によって金属組織が密となり、絶大な強度を獲得するのである。 |
左はプレスマシンに載せられたビレット。炎は、加工しやすいように加熱したビレットの温度を保つためのもの。右が一次鍛造されたもの。アウターリムとディスク面の粗い形状がかたちづくられている。 |
|