大体NSXはホンダにとっての“金のなる木”ではない。自動車メーカーの立場からすれば、高級車ほど利益が大きいということは常識だが、このクルマの場合はたとえ1,000万円という価格であっても、儲かるから売るという状況からはほど遠い。これは、一度でもNSX専用に建てられた栃木、高根沢工場の製造現場を見れば、即座に理解できるはずだ。熟練工が慈しむように組み立てるこのクルマが、安易な金のなる木になり得るはずがない。もし、そうだったとしたなら、オリジナルNSXと同時期に誕生し、バブルの崩壊とともに相次いで姿を消していった、いわゆる高級車やパイクカーたちと同じ運命を辿っていたことだろう。それどころか、既に皆さんがご存知のように、NSXはデビューから7年目にして、数え切れないほどのきわめて実質的な改良を受け、新しく生まれ変わった。このこと自体、NSX開発チームがこのクルマに注ぐ大いなる情熱を表しているとはいえないだろうか。
「'97NSXを一言で表すなら、これまでの特長をさらに大きく広げたものといえばいいでしょうか」と、上原氏は語る。つまり、オリジナルNSXの持つ運動性能、ヒューマンフィッティング、それに環境適合性という、一見矛盾する三つの性能をそれぞれより引き上げたということだ。欲張りな考えであるのは勿論だ。何かを切り捨てて考えられれば、遥かにたやすいのも分かっている。だが、あえて彼らは困難な道を選び、遠い高みを見上げている。
「3リットル前後という排気量を前提としたこのクラスの中では、今回のNSXはかなり理想に近いものに仕上がったのではないかと自負しています」と上原氏は語るが、ただし、と言ってこう付け加える。「スポーツカーというものは、ユーザーとクルマの良好な関係が不可欠だと思います。そしてそれは時代とともに変わっていくものです。乗り手とクルマが時代に応じて常に最適な距離を保つことができて初めて、時代を超えるスポーツカー、人々の心に残るスポーツカーになれるのだと思うのです」

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