ただし、ポルシェとホンダの開発スタッフ同士の間に漂う空気に、敵意は含まれていなかった。それどころか、ちょうど964RSの開発のために“リンク”にやって来ていた彼らは、和田氏たちにポルシェの開発のやり方やテストドライビングの方法などを間近で見せてくれることさえあったという。
「コースの近くの道で、テストカー同士がすれ違ったりすることがよくあるんですよ。そういうときはパッシングをして、手を上げて挨拶を送ってくれたりするんです。ああ、俺たちは仲間に入ったんだな、と何かこう、感激したのを覚えています」
そう、深い森の中のスポーツカーの聖地に集う彼らは、話す言葉やアプローチの仕方が違っても、同じ目標を戴く仲間たちなのである。
それからほぼ4年、和田、尾崎、そして上原繁エグゼクティブ・チーフエンジニアたち、NSX開発チームのスタッフはふたたび、霧に煙るアイフェルの深い森の中にいた。
さらに大きく一歩を踏み出す新しい'97 NSXの最終開発テストがはじまろうとしていたのである。

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