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「もちろん一番はポルシェ、二番はフェラーリ。三番は…ないな」

かつて、ニュルブルク村の小さなパブで、ポルシェのテストドライバーが得意そうにこう答えるのを聞いて、本田技術研究所の和田範秋氏は心の中で、「何をいってやがる」と思ったという。それはちょうどNSX-Rの開発が佳境に入っていた頃のこと、和田氏を含めたNSX開発チームの面々は、どちらが母国か分からないほど、ドイツのアイフェル山中を縫うように続く世界で最も過酷なサーキット、ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェ(旧コース)に通い詰めていたのである。ポルシェのスタッフと認めて、「世界でベストなスポーツカーは何か?」と問いかけたのは自分だとはいえ、その時の和田氏の心中には、単なる反感やライバル意識以上のものが渦巻いていたに違いない。何といっても相手はポルシェ、スポーツカーの世界に屹立するひとつの巨峰であることは疑問を差し挟む余地がない。

しかも、もともとNSXは、スポーツカーというパラダイムの中で、ポルシェ911に対するある種のアンチテーゼとして企画されたクルマなのである。それは、オリジナルNSXのデビュー後に、同じ開発チームのLPL(ラージ・プロジェクトリーダー)である尾崎俊三郎氏が「フェラーリと比べられるのは構いません。むしろ光栄ですよね。ただポルシェと比較されるのはちょっと心外です。私たちはまったく別のものを目指し、そういうクルマを造ったつもりなんですから」と語ったことからも明らかである。

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