NSXはしかし、順調に走った。そしてついに82番のポルシェをかわしクラス4位に浮上。83番はわずか数周先である。と、そのとき、83番のリアから白煙が立ちのぼった。我がNSXのピットに狂喜の声が上がる。朝7時20分。まだ、クラストップになる可能性だって残されている。大詰めに近づくピットでは、もはや同情の念はない。生き残りもレースだからだ。
このころから、ピットは盛り上がりはじめた。使命感に圧迫される雰囲気ではない。昨年もうすでに優勝という栄光を成し遂げているチーム国光ホンダのピットでは、完全にレースが楽しまれていた。熱い視線でモニターを見つめていると、83番のポルシェが再びラップタイムを記録しはじめた。素早い復帰である。NSXのメカニックも「相当気合い入ってるな」と、敵陣の動きに気合いを入れ直す。
そこにNSXがルーティンのピットイン。7時40分、給油とリアタイヤのみの交換で土屋選手が乗り込み飛び出した。もちろん、ドライバーも今の状況を把握している。3位は目の前である。この時点で83番に3周遅れの4位。約15分のビハインドである。
こういう状況で土屋選手が燃えないわけはない。グングンタイムを上げ、それまで超えられなかった4分20秒を突破。8時13分には4分18秒013と予選を上回るタイムを刻んだ。モニターに食い入る面々は、「おお!」と、感嘆の声をもらした。なんとその直後には、4分16秒台のタイムを叩き出す。ご存じの通り、この時点でNSXのクラッチはなくなっていた。実はブレーキもつらく、最後までリアのパッドが持つかどうかは「賭け」の状態だった。
土屋選手の気合いを飯田選手が引き継ぎ、猛追を続ける。9時、2ラップ差。9時半、1ラップ差。このとき233周、生存は26台。しかし、元気を取り戻した82番のポルシェが、4分15秒台でNSXを追いはじめていた。差は数ラップである。もう、ピットはエキサイト。モニターに向かい、声援が飛びはじめた。そして、9時35分に83番と同ラップ、9時38分、ついに我がNSXはGT2クラス3位に浮上した。
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