
「パワー的にちょっとつらいけど、やるよ。何が起きるかわからないからね」と土屋選手は午前中から気合いを入れる。飯田選手も「おれスタートだから。絶対に上がってみせる」と息巻く。気温30度、路面温度40度以上という厳しい条件で、24時間のロングディスタンスを乗り切るのはどのクルマにとってもつらい。気温の下がる“夜”も短い。まさにスポーツカーの信頼性競争という、ルマン24時間レース創生当時のサバイバルな機運が色濃くなってきた。
NSXのライバルは、ポルシェGT2、マーコス、キャラウェイ・コルベット。ポルシェ勢は3600ccターボ、マーコス、キャラウェイはノーマルアスピレーションながら6200ccクラス。我がNSXは、2997ccノーマルアスピレーションである。スタートは、NSXより予選タイムで4秒遅かったポルシェGT2を1台横に置いての最後列。ここから、いかなる追い上げを見せるか…というレースとなる。出走は48台。「逆に気持ちいいですね。どれだけ前に行けるかという勝負ですから…」と国光選手は笑顔を見せた。
ペースカーのBMW M3が速く回りすぎたのか、最終コーナーを目前にして歩くような速度にペースを落とした。スタートは、3時きっかりでなければならない。フロントロウのポルシェGT1とTWRヨーストポルシェが、M3のリアを「早くどけ!」と、つついているようだ。そしてルマン市長がコネクションを駆使して招聘した名優アラン・ドロンが、ぎこちなく打ち振るトリコロールフラッグを合図にスタートが切られた。
飯田選手は、右足に渾身の力を込め、DOHC V6 3000 VTEC NAエンジンに鞭を入れた。ピットのモニターにはTVカメラの映像が映しだされていた。チームの全員が集まり、その映像を目を細めて見守る。彼らの眼前を通過していった眩しい青のNSXには、鋭い気合いのオーラが立ちのぼっていた。
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