こうした状態をこれからも進化させることが、NSXの存在意義であると考えています。つまり、人とスポーツカーのいい関係を保ちながら、その次元を高めていくこと。ビークル・ダイナミクス(運動性能)とヒューマン・フィッティング(快適な操作性)、そしてロードコンディション・アダプタビリティ(環境適合性)というNSX開発当初から掲げてきた3軸の考え方を高次元でバランスさせることです。NSXは、これからもその考え方を不変のものとして進化させていきます。
大切なことは、人間という重要な存在を置き去りにしないことです。人間を置き去りにしてスペック競争を行うと、またスポーツカーは乗りにくい遠い存在のクルマになってしまいます。キカイを進化させることはすぐにできますが、人間の能力はすぐに進化しません。結果として、互いに歩調が合うようにハードとソフトを考えるのが我々の役割だと考えています。
その考えにもとづき、これまでのように幹となる中心のモデルを育て、枝葉を伸ばし、周囲を繁らせて行こうと考えています。もちろん、ただおとなしいだけのスポーツカーであろうとは考えていません。ホンダのフラッグシップスポーツとして、堂々とした存在たるべく進化させていくつもりです。
いつだったか、イギリスのディーラーを訪ねたとき、「スポーツカーで大切な要素は2つあり、それは性能とイメージだ」と、現地のスタッフがいっていました。また、「性能はすぐに上げられるがイメージは思い通りに行かない。欧州では30年かかる」ともいっていました。アメリカンドリームは早く成し遂げるほどイメージは向上しますが、日本ではそうもいきません。まあ、日本では“10年ひと昔”という言葉があるように、10年が一つの区切りとしてなんとなく認識されているようです。NSXは人の存在を重視していますから、そうした人の認識と大きくかけ離れることはないと申し上げておきましょう。
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