クルマ社会の熟成はクルマに対する価値観をも変化させ、すでにクルマを見つめる眼は、サイズや排気量による差別より、いかに自分の使用目的に合致しているかの一点に絞られている。オデッセイの成功がその例。家族を中心に見据えたオデッセイであれほど割り切ったデザインができるなら、スポーツドライビングのために生まれたNSXには、さらに大胆なデザインが期待できる。1994年の初夏、NSXはルマンのサルテサーキットで見違えるほどに逞しい姿を見せ、その翌年はさらに逞しさを増した。
すでにホンダはF-1の成功でその技術力の高さを世界に証明している。しかしそれはホンダという企業全般に対するもので、決してNSXだけに絞られているわけではない。NSXに対抗する強豪は世界中に存在する。NSXが世界に名だたるスポーツカーとして本当のステイタスを得るのは、サーキットの上で彼らと決着をつけてからだ。現在の、ロングツアラーとして十分に使用可能なNSXは確かに正論である。しかしサーキットの戦いを考えるなら、より強力なエンジン、走る上での余分なスペースの削除が必須だ。NSXがスポーツカー本来の思想に徹してデザインされレースに登場すれば、その戦闘力は計り知れないものがある。 |
近代ホンダにとって久しぶりのピュア・スポーツカー NSXは、発売後5年を経ても、まったく新鮮さと魅力を失わず、そのあらゆる性能は世界一のレベルを保持している。5年という短い間ですでに世界が認めるスポーツカーとなったといっていいだろう。発売と時期を同じくしてはじめられたオーナーズ・ミーティングに、講師として参加し続けているが、この5年で実に大勢のオーナーとの出会いがあった。決して速さだけを追求することなく、このクルマの、タイヤの性能を含めた運動性を引き出し、ドライビングを楽しむという方針で働きかけている。ひたむきにNSXをきれいに走らせることを目的に楽しむことのできる人たちが多いのは嬉しいこと。ただ、NSXの保有率からすると、もっとたくさんの方とお会いしたいと思っている。
今後も、オーナーズ・ミーティングではオーナーの方々とのふれあいの場として、安全と楽しさの追求を地道にきちっとやっていければと思います。スポーツカーに興味をお持ちの方は、この、日本の誇る素晴らしい技術でつくられた純粋なスポーツカーを、この機会にもう一度見直して欲しい。その楽しみ方、走らせ方はオーナーズ・ミーティングを通して一緒に考えていきましょう。 |
日本のバブル経済のまっただ中に登場したNSXは、時流の中で本来の姿を誤解されたという嘆かわしい過去がある。「運転のしやすさ」ということに対する評価は賛否両論だったが、個人的には正解だと思う。日本の自動車産業はこれまで、安価、便利、耐久性を目指して成長してきた。そして今やその技術力は世界一のレベルに達する。その技術力をして生まれたNSXは、今後いかにして「思想」を付加していくかが課題だろう。イタリアではあのフェラーリがNSXの走りに地団駄を踏んだと聞き、日本人として、非常に誇りに思った記憶がある。
現に、NSXは欧州でも俄然、注目の的なのだ。「fun to drive」という日本車の不得手とする、しかしスポーツカーにとって不可欠な領域を克服し、高性能と運転する楽しさを両立させたNSXは、まさに現代日本の誇れるスポーツカーだ。
そんな、日本が待っていたスポーツカーNSXには、夢を壊さないで欲しい。アイデンティティを大切にしつつ、時代に合わせながら、一歩先をゆく進化をしていって欲しい。それがホンダの存在意義だと思う。5年間という短い間にも着実に歩みを進めてきたが、是非、行き着く先を意識していたいクルマである。これから先の息の長い発展こそが、NSXをスポーツカー市場での不動の存在とするだろう。 |
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NSX Press vol.17は1996年3月発行です。
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