スポーツカーはそれぞれ独自の世界があって、違いを云々する種類のクルマではないと思う。NSXが登場した当初、乗りやすいスポーツカーという、ある種特異な存在として見られたけど、今、世界のスポーツカーを見渡して感じませんか?イージードライブの方向に向かっているでしょう。
「このスポーツカーは、こうやって乗り、楽しむものだ…」という人がいるけど、僕にいわせれば、それはある種の欠点を持っていることになる。F-1だって癖のあるクルマは乗りにくい。僕もその点は、身をもって相当苦しい経験をしたからよくわかる。そういう意味で、人間の存在を考えに考えた新しいスポーツカーとして、NSXは意義を提示できたし、確実に第一歩を踏みだしたと言える。
他のスポーツカーを否定するわけではない。独特の走りの味をだすのは難しいし、NSXのように誰にとっても快適かつ性能的に奥深いクルマをつくるのも、解決しなければならない問題の量が多く難しい。NSXよりパワーのあるクルマと競争した時、普通の人ならパワーのある方が速いだろうけど、サーキットドライビングのうまい人ならNSXの方が速いかもしれない。NSXはそんなクルマだ。いずれにしろ、どちらも真似できないし、同じじゃ面白くない。NSXはこのまま独自の世界を追求して欲しい。
そして10年ぐらいたったら何か欲しいですね、変化が…。 |
「NSXが誕生してから5年目と聞いて驚いた」こう書き出すと、(もう5年もたったのか)と感じているのかと思われがちだが、その逆で(5年しかたってないのか)と思ったのだ。あまり、年代とか数字に強くない方なのでそう思ったのかも知れないが、それにしてもこのNSXは、馴染んでいるというか、もっと前から存在していたようにすましている。それだけすんなりと日本のモータリゼーションに溶け込んでしまったのだろう。
先日、上原繁エグゼクティブ・チーフエンジニアとお会いした時、そのような話をしていたら、上原さんは嬉しそうに「スタンダードになったということですよ。デビューした当時は、色々と言われましたけど、すぐにそのような声も消えていったんです」と言っていた。スタンダードな中に高性能を秘めるとは、日本を代表するスポーツカーとして相応しいような気がしている。
そしてこの5年間でNSXは確実に進化している。外観には変化はなくともその内では、周囲を唸らせるようなテクノロジーが込められてきた。
中身はまったく変わりないが外側だけが変わるという例が多い中で、NSXは、そのスタンダードさを踏襲して、さりげなく進化した。
これからもその信念を貫いて欲しい。 |
NSXは本格的スポーツカーである。スポーツカーというクルマには幅が広く、古いスタイルを大切に保っているものもあるが、ポルシェのように現代の社会的ニーズをじっくりと具現化しているものもある。NSXは新しい高性能スポーツカーだから、この社会的ニーズを技術的にクリアするものでなくてはならないばかりでなく、もっと積極的に新しいコンセプトとしてCO の低減や安全にとりくまねばならないと思う。
つまり次のNSXは、スピードの追求とともに燃費の大幅な改善や100km/hでの衝突安全性を実現するクルマであって欲しい。その上で機能的な部分をより高めることが必要だろう。
高性能と社会性がバランスされてこそホンダのシンボルカーとしての存在がはっきりする。
レベルの高い社会性は、このクルマをよりカッコ良く見せるだろう。今や不良性とか過剰性はスポーツカーだからといって許されるものではない。
素晴らしい動力性能やスタビリティを持ちつつ、あるいはルマン24時間のようなモータースポーツで闘いつつ、しっかりと社会のニーズに応えることが、カッコいいことだと思う。
それでこそホンダNSXなのである。 |
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NSX Press vol.17は1996年3月発行です。
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