復活したGTの祭典

 レースと関わる歴史を経るうちに、進歩的なルマンの人々の集まりであるA.C.O.は、もう一歩進んだ独自のレース開催を望むようになった。当時のグランプリレースにおいても、レーシングマシンによる自動車技術の極限を模索するというスタイルは変わらず、一部のマニアが強烈に支持する一方で一般の人々は遠巻きに眺めるという状況があった。そこで一般大衆をも引きつけるためには、生産車でのレースが最適であるという結論に達した。もちろん、当時でもプロダクトカーによるラリーやトライアルは行われていたため、“24時間走り続け、最も走行距離の多いクルマを優勝させる耐久レース”というインパクトあるプランを立案。身近な所でレースが展開されるよう、現在のサルテ・サーキットにほぼ近い1周17.262kmの公道クローズドコースを設定。
 そして冒頭に触れたように、生産車として有効なテストをこのレースが兼ねられるように、出場者はツーリング型のボディと完全に機能するヘッドライト、セルフスターターを備え、どのパーツも取り外してはならないこと、ドライバーは1人だが乗客に相当する重量を乗せること、燃料の補給もクルマの修理もドライバーが1人でやらなければならないといういささか厳しい規則を設けたのだ。
 このアイデアに自動車メーカーと多くの人々が大きな関心を集めた。24時間ルマン耐久レースは、こうした経緯と背景によってはじまったのだ。したがって、プロトタイプカーの闘いへと傾倒していった一時期のルマンが、昨年からGTカーを再び主役に迎え、Cカーが消えた今年、完全にGTカーが主役の座を取り戻したことを「復活」というのだ。
 プロトタイプカーのスピードも確かに魅力ではあるが、やはり多くの自動車ファンの目と心を楽しませてくれるのは市販のスポーツカーが武装した精悍な姿である。エキゾーストノートもバラエティに富んでいてまた楽しい。
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NSX Press vol.16は1995年8月発行です。