手近な紙などで簡単なボディモデルを作って実際に比べてみるとよくわかるが、ルーフのような梁となる部材の有無でそのモデルの剛性は驚くほど変わってしまう。これは当然ながら現実のクルマについても同じである。
しかし、ルーフを開け放つ開放感は捨てがたい。風と太陽を感じながらのドライビングは、自ら不思議に思えるほど、理屈抜きに気持ちよさを感じる・・・。そうした感動を満喫するモデルであるから、ある程度走りを犠牲にしても仕方がない。オープンは、かつてそうしたスタンスの上に立つクルマだった。
しかし、NSXがルーフというもう1枚の扉を開くとき、そのスタンスは否定すべきであると決められた。スポーティカーならまだしも、ピュア・スポーツカーと名乗る以上、オープントップといえども走りの点で妥協すべきでないとの判断である。これは、開発当初の裏話であるが、試しにオリジナルNSXのルーフをカットし、そのままテストコースでの走り込みを試みたらしい。当然ながら、曲げ、ねじれ剛性は大幅に低下し、コーナーを攻めることなどできなかった。ボディが柔らかいと、コーナー進入時に“そこはかとない不安”を覚えるとテスターがコメントしたという。また、様々なオープンスポーツカーの試走も敢行された。やはり、その多くに“不安”はつきまとった。
そして、サーキットを堪能できるNSXオープントップの本格的な開発がはじまった。ボディ各部に補強、設計変更を施して走り込む。さらに変更を重ね、また走り込む・・・。走行テストの舞台となったのは、北米、栃木、北海道のホンダのテストコースだけでなく、鈴鹿サーキット、ドイツ・ニュルブルクリンクにおよぶ。
最終的に、ニュルブルクリンク旧コースを十分に攻め込める剛性を獲得する頃、ボディ強化は50カ所以上にわたって行われていた。
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