それは、次代への進化
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我々ドライバーの世界では、それは数字としてあらわれる。自らの限界である。全力を尽くして獲得したタイムから、わずかでもレベルアップを望むのは簡単なことではない。何か大きな閃きが必要になる。3リットルというエンジンカテゴリーのマシンとして、そのトップエンドパフォーマンスを究めるべく開発されたNSXにとっても、これまでの限界点を超えることは容易ではなかっただろう。

限界レベルでのドライバビリティに注目するレーシングドライバーとして、'95年のNSXを走らせてもっとも体感できた進化はボディ剛性の強化だった。これまでも、評価の高かったNSXの高剛性ボディである。その進化は、限界でコーナーを攻めるときの安心感、心地よさを高めてくれるだけでなく、通常の走行速度域でもがっちりとした頼もしさをステアリングを握るものに与えてくれるだろう。正しいドライビングポジションをとれば、よりインフォメーションに富んだ小気味よい走りが可能となるはずだ。
こうした基本性能のレベルアップにともない、トルクリアクティブ・プリロード型LSDなど、よりハードなコーナリングを可能とする技術が搭載できたのだと思う。
このLSDは、鈴鹿の南コースや、筑波のハイアングルターンのとき踏んだ分だけクルマを前に押し出してくれるトルクを与えてくれる。定常円旋回の限界Gが10%高くなり、左右でミューを変えた試験路での加速Gが倍近くなったというテストデータも出ているから、かなりの性能アップといえる。
トルク増加に応じた作動ロードの増加は、あまり強めすぎると逆にオーバーステアが強くなるが、そのあたりが絶妙にチューニングしてあると感じた。フィーリングとしては、タイプRに近い。

それからアクセルペダルもタイプRに近い軽さがあった。これはDBWによるものだが、ユーザーメリットのなかでも大きなポイントといえる。僕らプロドライバーの微妙なアクセルコントロールにも的確に応えるし、操作性はきわめて心地よいるレスポンス自体は、むしろエンジンの性能によるところが大きいので、エンジン自体のスペック変更がないことから以前同様のスムーズなトルクフィーリングにそれほど変わりはないようだ。ただ、間にスチールのケーブルがないことを想像すると、イメージとしてダイレクト感が高まったように感じられるかも知れない。それよりも、TCSが効いたときにストレスわ感じなくなったことやデジタルによる様々な制御が可能になったことが、進化としての意義は大きいといえるだろう。

Fマチックは、シーケンシャル機構であり、手元にあることからもレーシングな雰囲気を楽しめるシステムだ。
センターに手を伸ばす時間が詰められ、ATマニュアルモード自体のレスポンス、ロックアップが早まったことで、加速性能は確実に向上している。ゼロヨンのタイムもかなり違いが出るんじゃないかと思う。
コーナー進入時に、4速からブレーキングしてシフトスイッチを2回連続して押してやると、1秒かからないレスポンスで2速に落ちるクイックシフトが、オーナーにとってはたまらない気分を味わえる魅力だろう。
こうしたハイテクの楽しさ、高剛性ボディの頼もしさを携えて登場した'95年のNSXは、ホンダの主張するとおり、ひと回り理想を進化させた印象を受けた。何よりも、これだけのことをやって重くしなかった努力は称えられるべきことだと思う。



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NSX Press vol.15は1995年3月発行です。