唯ひとつのロープロファイルストーリー
THE NEW LOWPROFILE SPECIAL

NSX専用、40/45ロープロファイルタイヤ&ホイールの開発は、一昨年の秋にはじまった。
開発ステージは、NSXの故郷ともいえるニュルブルクリンクに限定。運動性能で現在の50タイヤを上回り、ウェット、乗り心地、耐摩耗性能、パス・バイ・ノイズ(通過音)は現状を維持するという条件が設定された。
この条件は、難なく超えられるか、非常に困難なものになるかいずれかであろうと開発陣は予想を立てた。
それは、NSX本体の開発とともにじっくりと煮詰め、理想レベルまで到達していた現在の50の思想を受け継いだロープロファイルで性能アップできれば開発はた易い。しかし、そう単純にことが運ばなければ、またゼロからスタートしなければならない。
結果は、「困難」と出た。NSXの40/45タイヤは、やはり50の延長線上にはなかった。


試作タイヤコード番号「A」。Aは、フロントとリアの2本がある。まずAのフロント、Aのリアが装着され、テスト走行が始まった。テスト走行では必ず担当のタイヤ開発者が同乗する。ドライバーのインプレッションだけでなく、どこがどうなのかドライバーと共に体感したいという開発者の強い要求だった。
ステアリングを握らずにニュルを走行されたことがあるなら、おわかりいただけるであろうが、100を超えるコーナーとアップダウンの揺さぶりは想像を絶するものがある。最後のストレートがどんなに待ち遠しいか…。
テストはあくまで限界付近で走らなければ意味がない。ドライバーは命を懸け、エスケープゾーンの少ない“山道”を攻める。
第1ラップ目、2〜3kmもいかないうちにドライバーは横の開発者を睨んだという。開発者も、わかっていて目をそらした。コーナーの入り口でかなり大きなアンダーが出ていたからだ。
イメージ写真2 開発者も好き好んで、そういうタイヤを作っているわけではない。このニュルに運び込まれるタイヤは、ドラムテストと国内のテストコースで望むべき性能を示したものだけである。その予想が、ニュルというステージでは、ことごとく否定されてしまうのだ。

何と過酷なサーキットだろうと開発者は思う。ドライバーもそれは十分理解していた。しかし、一々感情を差し挟んでいては、判断も進行スピードも鈍る。“ドラスティック”に徹しなければならない。
次は、フロントAにリアBの組み合わせである。また走る。評価がくだる。そうして、はじかれた試作タイヤは、テストの組み合わせから外される。なかなか、これといった性能を示すロープロファイルが現れない。着実に進化してはいるが、理想にはまだ遠い。改めて、現50のレベルの高さと、1インチアップのハードルの高さを思い知らされる。そこをなかなか超えられないのだ。
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NSX Press vol.13 1994年3月発行