唯ひとつのロープロファイルストーリー
THE NEW LOWPROFILE SPECIAL  from NSX Project team 取材・構成:清水和夫
試作タイヤコード「AA」。「Z」を経てすでに一巡した。ドライバーの評価は着実に良くなっている。しかし、まだ…である。ロープロファイルは、グリップレベルが当然高くなる。ということは、タイヤにかかってくる力が大きくなることを意味し、ラップスピードも上がるため、グリップと相反する性能の整合レベルも高くなるのだ。異形サイズであることは、前後に同じ設計を科す必要がない反面、設計の自由度が広がる。前後2種類の設計と、それの組み合わせの数だけテストが存在するのだ。 イメージ写真3
もう、ブレーカーアングルの角度をわずかに変えていくほどのレベルに達していた。理論的設計というよりは、芸術的領域である。しかし、ドライバーはまだOKを出さない。着実にラップタイムは上がっているが、その分もっと高い理想を追い求めたくなるのである。

開発者が“もう限界だ”と言ったのはこれで2回目だった。試作コードは、「AAA」まできていた。しかし開発者は音を上げていたのではない。その証拠に、次にニュルで行なわれるテストには、さらにレベルを上げたスペックを必ず用意してきているのだ。そうしなければ開発は進まないが、その正確さと執拗さにはドライバーも驚く。
士気がさらに高まる…。
もうかなりのレベルまできていた。確実にコーナリング速度を上げていたし、スタビリティもまったく不安がない。アクセルをフラットアウトし、240km/hレベルからのレーンチェンジも安定している。アンダーもオーバーも消えてきた。
あとは、ノイズやらライフやらを上げていけば目標は達成できるはずである。テンションを緩めず開発を続ける。
イメージ写真1
最後に、ここまで磨き上げたタイヤを製造する技術の絞り込みを行なう。製造する成型器ごとにテスト、製造作業員についてもテスト…。作業員を限定し、製造技術までも高め、ついにNSX「専用」のロープロファイルタイヤは完成した。季節は一巡し、秋を迎えていた。



試作コードは、「ZZZZZ」までいった。その数は前後とも130種。すべての組み合わせを考えると、数千という驚異的な数になる。もちろん、一度NGとなったタイヤは、そこで切り捨てられていくが…。しかし、これほどまでに時間と情熱をかけられて誕生したロープロファイルタイヤが他にあるだろうか。それも、ひたすらNSXのための最高性能を求めるべく、すべてが投入されているのである。まさに世界で唯一の贅をつくしたロープロファイルタイヤと言えよう。
しかし、これがスペシャルであると言いたいのではない。費やした時間と情熱はすべて理想を求めるためである。だから、これがNSXのための本物のロープロファイルタイヤであると言いたいのだ。

このロープロファイルは、当然ながらグリップを高める役割を果たし、限界時に発生してくるロールによるトラクションの抜けやタックインを抑え込み、抜群のスタビリティを確保する。サーキットでのタイムアップは言うまでもない。まさに走りを追求したロープロファイル。 NSXの夢が、またひとつ加速された。
タイヤ&ホイールphoto
TIREF:215/45ZR16 R:245/40ZR17
WHEELF:16×7JJ R:17×8 1/2JJ
左の写真のタイヤ&ホイールは、オリジナルNSX専用のメーカーオプション設定です。詳しくは、ベルノ店にご相談ください。カタログ等をご用意いたしております。
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NSX Press vol.13 1994年3月発行