2008年7月発表 2016年3月終了モデル
この情報は2016年3月現在のものです。
広告紹介雑誌広告2 2003年12月掲載
21世紀の自動車として注目されている燃料電池車。水素をエネルギー源とした究極のエコカーといわれている燃料電池車をホンダは2002年12月2日に日・米同日納車し、実用化に踏み出した。それから約1年。さらにホンダならではの新しい技術を盛りこんだ新型燃料電池を開発、新春の箱根駅伝のサポートカーとして走行することになった。
燃料電池車という名称はここ2、3年、よく耳にするようになった。ホンダをはじめ日本やアメリカ、ドイツの自動車メーカーが次々と実験車を公開しているからだ。燃料電池車はガソリンや軽油など化石燃料を使わず、水素を化学反応させて電気を生み、その力でモーターを駆動して走行する。CO2や有害な排出ガスはゼロ。排出されるのは水や水蒸気だけ。燃料となる水素を太陽光などによる発電でおこした電気で水を電気分解して取り出せば、製造過程でも全くのCO2の排出がない究極のクリーンエネルギーだ。
つまり、燃料から走行までトータルでクリーンなため、燃料電池車は次世代の車として期待されている。
ホンダは1980年代から燃料電池の開発に着手。これまでに開発してきた燃料電池車「FCX」は、その環境性と走行性が注目されてきた。2001年から米国のロサンゼルスマラソンのオフィシャルカーとして、3年連続で使用され、さらに2002年には日米同日納車をして、実用化の第一歩を踏み出した。
今回、箱根駅伝のサポートをつとめるホンダの燃料電池車は、自社開発による新しいスタックを搭載した「FCX」。 その特徴は、(1)走行性能を高めたこと(2)氷点下での低温始動を実現したこと(3)高温での耐久性を向上させたこと(4)量産化を意識した素材を多く採用したこと―――の4点だ。
その開発のキーとなるのが電気を発生させる燃料電池だ。
今回新開発された次世代型燃料電池「Honda FC STACK」は、従来からのモデルをさらに進化させたもの。出力だけを見ても76キロワットから86キロワットへと強化されている。しかし、今回の改良で大きく開発を前進させたのは本体に世界初の金属プレスセパレーターとパネル型構造を採用したことだ。これにより、小型化と部品点数の半減に成功。特殊な材料も使用しておらず、将来の量産化をかなり意識した構造になっている。
最も特筆すべきは低温時の始動性が向上したこと。実は燃料電池車はこれまで氷点下では始動できないのが弱点だった。これでは厳冬の時期や地域での実用化はほど遠い。しかし「Honda FC STACK」は、アロマティック電解質膜という新素材を採用しこれを解決。セ氏マイナス20度でも始動できるようになった。ちなみに一般のガソリンやディーゼルのエンジンはセ氏マイナス30〜35度まで始動できる。今回の改良で、一般のエンジンに近い性能をホンダ新燃料電池は得たわけだ。
FCXはスタック以外も従来型と比べてかなり進化した。
まず走行性能の向上だが、モーターの出力は従来型の82馬力から109馬力にアップ。ウルトラキャパシターのサポートで発進加速に定評のあったホンダFCXだが、中高速域の強化でガソリン車にひけをとらない走りを実現する。航続距離も延ばし、1回の水素供給での航続距離は395キロメートルまでになった(LA4モード)。市販されているガソリン車と比較すればまだ短いが、これもかなり実用的になってきた。
今回の箱根駅伝の競技区間距離は、往復で約220キロメートル。大会のサポートカーとして、走り回ったとしても、競技中は無給油(?)で十分に間に合う。燃料電池車でドライブに行く。こんな日が来る日は着実に近づいているのだ。
(株)本田技術研究所
主席研究員 加美陽三氏
主任研究員 藤本幸人氏
―Hondaの燃料電池開発の流れを教えて下さい。
藤本:実車では1999年にメタノール改質燃料電池車「FCX−V2」に自社製FC STACK初期型を搭載したのをはじめ、2001年の「FCX-V3」では純水素高圧タンク燃料電池を開発し、公道テストを開始しました。V3はロサンゼルスマラソンなどで活躍しましたが、零下での始動が出来ないという弱点がありました。そこで低温始動を可能にするため、新素材の採用と、大幅な構造の変更により、次世代型燃料電池「Honda FC STACK」が誕生しました。
―燃料電池車開発のポリシーはなんですか。
加美:たとえ燃料電池車であっても、走る楽しさ、運転していて楽しいクルマでなければホンダ車とはいえない。そこを考えて開発しています。
藤本:今回の改良も、走行性能にとことんこだわりました。そのため、中高速域からの加速性能も従来型に比べ、さらに向上しました。
―独自技術にかなりこだわっていますね。
加美:人と同じことをやっていては上にはいけない…これが基本的な考え方なのです。
藤本:まず独自のやり方で開発し、他社のやり方と比べてみる。うまくいかないとわかれば、すぐに別の方法に目を向ける。この発想転換のはやさもホンダらしさといえます。燃料電池車の蓄電装置をバッテリーでなくウルトラキャパシタにしたのも、走行性能にこだわっているからです。
―燃料電池車の普及はいつ頃ですか。
加美:今は市販されていませんが、あと20年ほどでアコードを購入する感覚に近くなるでしょう。
藤本:いかにして手軽に水素を貯蔵できるかがキーです。そこをクリアできれば、クルマだけでなく、循環型エネルギー社会の新たな潮流を生み出すことになるでしょうね。