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もうひとつの夢に向かって着実に前進 青山博一マレーシアテスト・レポート

青山博一
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熱帯の国マレーシアは、連日30℃を超える猛暑が続く。初日の最高気温は32℃。前日まで雨の多い天候だったが、この日は青空がのぞき、熱帯の強烈な日差しが降り注いだ。冬真っ盛りの日本との気温差は20℃。最終戦バレンシアGPを終えて帰国、冬の日本でイベントをこなしてきた青山博一にとっては、さすがに厳しい条件となった。しかし、普段のトレーニングの成果は、こうしたテストでもきっちりと発揮された。「疲れたけれど、周回をこなすごとに身体の動きはよくなった。トレーニング不足だったし、体力的にすごく不安だったけれど、心配していたような疲労感はなかった。あと2日、徹底的に走り込みたい」と、68ラップをこなし初日のテストを終えた。

前回のバレンシアテストからの変更点は、ブレーキがブレンボから、2010年シーズンにサポートを受けるニッシンに変わったこと。「今日はニッシンのブレーキに慣れることができた。サスペンションのセッティングもいろいろ試して、その変化を感じることができた。いまは、何がいいのか悪いのかわからないけれど、変化を感じ取ることが1つの目的。まだ初日が終わっただけだが、思ったよりも成果はあったと思う。もっともっと、たくさん乗って、その変化を身体にしみ込ませていきたい。変化に順応して、身体が自然と動いていけるようになりたい」と手応えをアピールした。この日の青山のベストタイムは2分04秒38。ルーキーのテスト初日としては、まずまずのタイムだった。

2日目は、初めて電子制御のセッティングにトライした。「バレンシアから昨日のテストまで、基本的に電子制御を使わずに走り込んで来た。今日は初めて制御にトライしたが、正直、あまりうまくいかなかった」と、初体験となる電子制御に戸惑いを見せた。「MotoGPマシンは、250ccと違って、やれることがたくさんある。サスペンションや車体のセッティングに、電子制御も加わって、本当に無数の組み合わせがある。いまは、その変化を感じ取ろうと考えながら走っている段階。自分の中でこれがいいと自信を持って言えるようになるには、まだまだたくさんの時間が必要。でも、これをうまく使えなければMotoGPクラスでは戦えないと思う」と、ハイテク満載のMotoGPマシンに戸惑いつつも、最高峰クラスのマシンのポテンシャルの高さをあらためて感じ取っていた。

2日目のベストタイムは、初日より約1秒アップの2分03秒25。ルーキーとしては、2日連続で上々の評価、合格点を与えられるものだった。この日のタイム短縮の一番の要因は、「サスペンションのセッティングの変更だった」と語る。その一方、電子制御によるライディングの変化に戸惑う一日となったが、電子制御の重要性をしっかり感じ取る一日でもあった。

この日、青山は制御を使わず自分でアクセルコントロールした方が乗りやすいと感じていた。しかし、この状態では、RC212Vのポテンシャルを十分に生かし切っていないことをデータ上で知ることになる。つまり、制御をうまく使うことで、いままで以上にアクセルを開けていけるようにならなければならない。それが結果として、RC212Vのエンジンのパフォーマンスをうまく引き出すことにつながるということを実感するからだ。

「石橋を叩いて渡るタイプ」と自己分析する青山。こうして、理論と実践が結びついていくことで、次のステージへと自分を押し上げていく。2日目は午後にスコールになったこともあり、周回数は56ラップと初日より少なかったが、まさに「考えながらの2日目」。RC212V攻略に大きな一歩を記すことになった。

こうして、あっという間の2日間が過ぎて、テストは最終日を迎えた。「初日4秒台で始まって、2日目に3秒台がマークできた。最終日は、2秒台に入れたいですね」と一年を締めくくる最終日の走行に青山は気合を入れた。初日、2日目は、サスペンションと電子制御の変化をつかむためのテストメニューをこなした。このテストで青山は、250ccにはない変化に戸惑いながらも、着実にタイムを上げた。そして最終日は、車体のジオメトリーを大きく変えることにトライすることになった。「今日はフロント周りのセッティングを大きく変えたんですけどね。この3日間の中では、一番の大きな変化だった。結果的に、すごく乗りやすくなってタイムもポーンと上がった。自分でもびっくりするくらいの変化でしたね」と、ルーキーとしては驚異的とも言える2分02秒30をマーク。2010年の活躍を十分に期待させるものだった。

この日は41ラップと3日間でも最も少ない周回数だったが、新人離れしたベストラップを刻み、15ラップのロングランでも、2分03秒台後半から04秒台前半で周回し、一発の速さだけでなく、安定した速さを披露してチームスタッフを喜ばせた。「この3日間、本当にいろんなことが試せた。来年はバイクが新型になるので、このバイクでセッティングしていっても仕方がないので、こうしたらこうなるという変化を感じ取るためのテストになったが、予想以上にいろんなことを学べた。最終日は2秒台を出すのが目標だったし、それを果たせてうれしい。タイムアタックしているときは2秒台を4ラップ続けて出せた。ベストタイムを出したときは2回もミスをした。あのミスがなければ1秒台は確実だった。それが残念でしたね」と悔しそうな表情を見せ、2分02秒30に大喜びしているスタッフを驚かせていた。

レースを始めてからの夢だった世界チャンピオン獲得を果たし、もう1つの夢であるMotoGP参戦に向けてスタートを切った青山。一年の最後を締めくくるマレーシアテストを終え、来るニューシーズンに向けて、こう語ってくれた。

「来年は2月から4月の開幕まで3回6日間しかテストがない。おそらく、この3回のテストでRC212Vを乗りこなすのは無理だと思うし、開幕してから実戦でバイクに慣れていくしかないと思う。そういう意味で、日本GPが第2戦というのは僕にとっては厳しいと思うけれど、走り慣れているツインリンクもてぎでいいレースができれば、それからのヨーロッパラウンドにつなげられると思う。バレンシアとマレーシアの2回のテストを終えて、まだ、2010年の目標を語るところまでいけていないけれど、みんなの期待に応えられるようにがんばります。来年はチャレンジャーなので、チャレンジャーらしく、攻めの走りでがんがんいきます」