日本が初めての国際レースを体験した1962年、世界GPで125、250、350ccの3クラスを制覇したHondaは、ひと通りの結果が得られたとして1963年の活動規模を縮小し、62年型ベースのワークスマシンと市販レーサーCRでGPを戦った。
しかし、伸張著しかったスズキ、そしてヤマハ、あるいは海外のMZやモリーニといったライバルは黙っていなかった。結果的に、50と125は小排気量で圧倒的な強さを誇ったスズキがライダー&メーカーチャンピオンに輝き、安泰と思われた250ccと350ccでもHondaが思わぬ苦戦を強いられる事になった。
そして、1963年10月10日。世界選手権ロードレースの最終戦・第12戦として初の日本GPが鈴鹿サーキットで開催された(開催は50、125、250ccの3クラス。350ccは出走台数不足で不成立)。50ccと125ccはすでにスズキがチャンピオンを決めていたが、このレースではHondaがシーズン途中から開発に専念していた50ccと125ccのニューマシンを登場させ、両クラスの王者スズキ追撃への意欲を見せた。
日本GPで初登場・初優勝したのは50cc 2気筒DOHC4バルブ=RC113であり、活動休止中だった50ccクラスでシーズン唯一の得点を記録。そして、125cc初の4気筒であるRC146──両マシンともに、2ストローク有利と言われる小排気量クラスにおいて、多気筒化した4ストロークの徹底した高回転・高出力で対抗しようというHondaの意思表示だった。
125はこの年の王者、空冷2ストローク2気筒ロータリーバルブのスズキ RT63を駆るフランク・ペリスが安定した速さで優勝したが、RC146は予選でルイジ・タベリがポールポジションを獲得、決勝ではレッドマンが何度もトップに立ちその性能をアピール。レッドマン2位、ロブ4位という結果を残し、翌シーズンの小排気量クラスでのHondaの復活を印象づけた。また、3位となったスズキのデグナーは新型の水冷エンジンを走らせていた。
そして、激戦が続いた250ccのチャンピオン争いがこのレースに持ち込まれた。この年、250ccで争ったのは、空冷4ストロークDOHC4気筒のHonda RC164、空冷2ストローク2気筒ロータリーディスクバルブのヤマハ RD56、そして空冷4ストローク単気筒のモリーニだ。
Hondaにとってモリーニの活躍は、文字どおり思わぬ伏兵だった。ハイパワーだが車重のあるRCレーサーに対し、単気筒のモリーニはアンダーパワーでもすこぶる軽量で、曲がりくねったテクニカルコースではモリーニに分があった。鈴鹿での日本GPまでの9戦ではモリーニ4勝、Honda3勝、ヤマハとMZが1勝を記録し、ライダー、メーカーチャンピオンともにHondaとモリーニが有効得点42点で250ccの10戦目となる日本GPにもつれこんだ。
また、250ccへの本格的参戦を開始したスズキは、水冷2ストローク・スクエア4気筒のRZ63IIを日本GPに投入。最高出力50psと言われたこのモンスターマシンが加わった決勝レースは、スタート直後の1コーナーでRZ63IIのデグナーが転倒し炎上するというアクシデントで幕を開けている。
直後にいた僚友ペリスは失神したデグナーを助けるためリタイヤ(デグナーは大火傷を負った)。レースはHondaのレッドマン、ヤマハの伊藤とフィル・リードの大接戦が最後まで続き、0.1秒差・わずか数メートルという僅差で伊藤をかわしたレッドマンが優勝。
タイトルを争うモリーニのタルキニオ・プロビーニは体調が優れず、スズキのアンダーソンおよび長谷川弘とセカンドグループで4位争いをしていたが、最終ラップに転倒した長谷川にアンダーソンが巻き込まれリタイヤすると、そのまま4位でレースを終えた。
ライダー、メーカーポイントともに、レッドマン&Hondaと、プロビーニ&モリーニとの差は2点。GP史上でも稀に見る激闘だった。
1位 | ルイジ・タベリ | Honda | 41分34秒7 |
2位 | ヒュー・アンダーソン | スズキ | 42分02秒8 |
3位 | 増田 俊市 | スズキ | 42分35秒6 |
4位 | 市野三千雄 | スズキ | 42分36秒2 |
5位 | 島崎 貞夫 | Honda | 42分37秒1 |
6位 | 伊藤 光夫 | スズキ | 42分37秒7 |
最高ラップ 2分58秒8 ルイジ・タベリ Honda
1位 | フランク・ペリス | スズキ | 53分11秒9 |
2位 | ジム・レッドマン | Honda | 53分15秒9 |
3位 | エルンスト・デグナー | スズキ | 53分24秒8 |
4位 | トミー・ロブ | Honda | 53分25秒5 |
5位 | ヒュー・アンダーソン | スズキ | 54分07秒4 |
6位 | 伊藤 光夫 | スズキ | 54分44秒7 |
最高ラップ 2分37秒1 ジム・レッドマン Honda
1位 | ジム・レッドマン | Honda | 1時間01分34秒3 |
2位 | 伊藤 史朗 | ヤマハ | 1時間01分34秒4 |
3位 | フィル・リード | ヤマハ | 1時間01分52秒5 |
4位 | タルキニオ・プロビーニ | モリーニ | 1時間02分39秒8 |
5位 | ルイジ・タベリ | Honda | 1時間03分11秒7 |
6位 | 粕谷 勇 | Honda | 1時間03分11秒9 |
最高ラップ 2分31秒4 伊藤 史朗 ヤマハ
1位 | ジム・レッドマン | Honda | 1時間06分03秒4 |
2位 | 山下 護祐 | Honda | 1時間06分20秒5 |
3位 | ルイジ・タベリ | Honda | 周回遅れ |
最高ラップ 2分33秒9 ジム・レッドマン Honda