レジェンド 小川友幸 Gatti - 全日本史上初6連覇への挑戦

2 6連覇への道半ば、苦戦が続いている

6連覇への道半ば、苦戦が続いている
勝った小川友幸(左)は“しかめっつら”で、負けた野崎史高(ヤマハ)は笑顔。全7戦が組まれた「2018全日本トライアル選手権シリーズ」の折り返し点となる第4戦北海道大会(7月15日/わっさむサーキット)、最高峰の国際A級スーパークラスで優勝争いを展開した小川と野崎はゴール後、握手をかわした。その瞬間の、2人の対照的な表情は、それぞれの思いを表しているかのようだった。第3戦で圧勝した野崎は、第4戦も前半トップに立ち、小川をリードした。逆転負けを喫したものの、5連覇王者の小川と勝負ができたことはさらなる自信につながったようだ。一方、小川は今季2勝目一番乗りでポイントランキングも再び首位に返り咲いたとはいえ、ここまでの4戦はすべてが苦しい戦いの連続だった。

イバラの道を選んだ小川

 小川友幸は6連覇達成のために、まさに全身全霊を捧げている。自ら困難な状況や苦難の多い人生を選択した、と言ってもいいだろう。そもそもの始まりは、今年の全日本トライアル開幕戦(3月11日/茨城県真壁トライアルランド)に向けての練習で、右足首のじん帯を損傷してしまったことだった。医者からは、2カ月ギプスをすれば強いじん帯に戻ると言われたが、それでは開幕戦に出られない。第1戦を欠場すれば、V6は絶望的になる。残り6戦を全勝したとしても、自力でチャンピオンにはなれない計算だ。6連覇するには、開幕戦に出て高成績を残さなければならない。そのために小川は、3日でギプスを外したという。究極の選択において、強いじん帯よりも、連覇を選んだのだ。そして、小川はまさに“イバラの道”を歩み始めることになった。


爽やかな笑顔も見せた、黒山との共演

 第1戦については、この連載の第1回でお伝えした通り。右足首のじん帯をテーピングで固定していたため、足首がほとんど曲がらない状態で思うようなライディングができなかった。小川は最大のライバルである黒山健一(ヤマハ)に敗れて、2位となっていた。その2週間後、東京ビックサイトで行われた東京モーターサイクルショー(3月23〜25日)で、小川は黒山や全日本レディースチャンピオンの西村亜弥(ベータ)とともに、トライアルのデモンストレーションを披露した。このときの小川は、爽やかな笑顔を見せて、楽しそうに輝いていた。ダンロップのトークショーでも、観客やファンらと交流。レースでは見られないような小川のにこやかな表情は、つかの間の息抜きにもなっているのだろうかと思われたが…。小川自身は、第4戦北海道大会のあと、次のように振り返ってくれた。

「爽やかな笑顔でも、内心は開幕戦で負けたあとでしたし。負けたことは仕方ないと気持ちは切り替えていても、デモンストレーションもトークショーもライバルと一緒なので。そのときから戦っている感覚が、どこかしらありますね。だからと言って仲が悪いとか、なにか隠しているとかはないですし。ライバルとして強く、うまいと認める相手と戦わなくてはならないですから。勝ちたい、勝たなきゃ、という思いがあります。ですから、息抜きにはならない、シーズン中の一コマですね」

小川友幸

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第2戦近畿大会で、やっとひと息

 東京モーターサイクルショーでデモ走行を披露した3週間後、全日本トライアル第2戦近畿大会が4月15日、和歌山県の湯浅トライアルパークで行われ、小川が今季初優勝を獲得。ポイントランキングでもトップに立った。競技は5時間の持ち時間で10セクションを2ラップしたあと、2つのスペシャルセクション(SS)に挑んだ。小川は1ラップ目の出だしから連続して失敗、競技序盤は一時は8位と大きく出遅れた。その後追い上げたが、1ラップ目終了時点で同点トップに並んでいた黒山と野崎に対して、まだまだ大差をつけられていた。ところが、2ラップ目の小川はあわやパーフェクトの完ぺきに近い走りで黒山と野崎を大逆転。1点差のきわどい勝利ながらもSSで逃げきった小川が、待望の今季初優勝をもぎ取った。そのときの小川は、「出だしで減点5を重ね、一時は開幕戦の再来かと思った。勝負をあきらめず、2ラップ目はパーフェクトを狙うしか道はなかった。2ラップ目はすごい緊張感があったが、出だしから攻略できた。昨年(第3戦で同年初優勝)よりも早く勝てたので、ホッとしている」と語っていた。この大会では、最終セクションを走り終えた瞬間、頬を大きくふくらませていた小川の表情がとても印象的だった。そのことについて、第4戦北海道大会の後、改めて小川に聞いてみた。

「第2戦はプレッシャーが大きかったですね。あれはもう、大逆転しなければならない状況で。2ラップ目はオールクリーン(減点0)に近い点数でギリギリ届けばという、そんな状況で自分にプレッシャーをかけて、オールクリーンを目指しました。最後まで接戦だったので、最終セクションを走り終えたときはプレッシャーから解放されて、そういう表情になったと思います」

小川友幸

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初のシティ・トライアルで、完全優勝

 第2戦の6日後、4月21日はアジア初開催の市街地トライアル「City Trial Japan 2018 in OSAKA」(CTJ)が大阪浪速区の新世界・通天閣の本通商店街で開催された。このイベントは商店街の道路を長さ150mにわたり封鎖して、そびえ立つタワーをはじめ、丸太とタイヤ、大きな箱の3つの大掛かりな人工セクションを用意。全日本トライアル国際A級スーパークラス(IAS)の藤原慎也の呼びかけでIAS選手15名が集まり予選から争った。ライダーたちのジャンプに、「バイクが飛ぶなんてすごい」と子どもたちも大喜び。通常通りに営業していた商店街に来たお客さんも、「バイクに乗った人が飛んだり跳ねたりしながら忍者みたいに壁まで上ってしまう」と、生の迫力に興奮していた。競技は、予選から決勝までただ一人減点0の完ぺきな走りでタイムも速かった小川友幸が初代王者に輝いた。大ジャンプで観客を沸かせた黒山が2位。ほかの選手たちも果敢なトライで競技を盛り上げて、「山の中に来てもらうのではなく、街中へトライアル競技を見せに行こう」という初の試みは大成功したのだった。

この大会の勝利者インタビューで小川は、「街中でトライアルができて最高です。サーカスではなく、バイクを操る訓練を積めば交通安全にもつながることを知ってほしい」とアピール。この大会は後日、「世界レベルのライダーたちが神業を披露」とテレビのワイドショーや報道番組でも紹介され、コメンテーターからは「地域の活性化にもつながるのでは」とも評価されていた。このCTJについても、第4戦北海道大会のあと、小川に思い出してもらった。

「足首の痛みは、そこまで影響なかったですね。セクションは、それほど難しくはなかったですし。イベントではありますが、大会の一つでした。あのときはライバルの黒山選手が大ジャンプをして魅せる方に走ったので、僕の役割としては勝たなければと、キッチリとオールクリーンすることに専念しました」

小川友幸

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